【DIRECT TRADE WITH EL SALVADOR VOL.5】「続ける」ことでみえる景色
私たちウッドベリーコーヒーは「コーヒーに携わるすべての人が豊かになること」を目指しています。【EPISODE OF EL COLORIDO】の連載で取りあげた「グアテマラ/エル・コロリド」もまた、その目標を実現するための取り組みのひとつでした。グアテマラを訪れた私たちはそして、もうひとつの夢であったダイレクトトレードをおこなうべく、エルサルバドルへと向かいました。
この連載では、私たちがおこなったエルサルバドルとのダイレクトトレードについてお伝えしていきたいと思います。
手探りの価格交渉
日本から行きたいと思う農園にオファーしたのち、現地に到着次第ブラインドカッピングをおこなって買いたい農園を決めます。買いつけに行くのは収穫時期の2月中旬ごろで、プロセスや倉庫で生豆を休める期間、パッキングなどを経て、船で日本に届くのは10月ごろになります。
初年度は買いつけ自体が突然決まり、手探り状態だったため恐ろしくもありました。じっさい、現地で購入する量を訊ねられたときに値段がわからずかなり戸惑ったのを鮮明におぼえています。だいたいの量を伝え、帰国してから改めてプライスリストを見ながら交渉しましたが、それでもだいぶ高い金額で買っていたことに他社の方の「ウッドベリーはすごく高く買っているね」というひとことで気がついたくらいでした。というのも、私たちは「商社から買うより多少安く買えればいい」と考えていたんです。商社は手数料や利益を20%〜60%程度上乗せしてロースターに売っているという、当たり前のことに気がついていなかったのです。とはいえ、仮に同じ金額で直接買い取れば、そのぶんの金額が生産者の手に渡るため、高い金額で買ったことがまちがいだとは思っていません。ある意味、正当な価格で買ったのだと考えています。
ちなみに、訪れた農園のなかには商社をとおしてほしいとおっしゃる方もいました。ダイレクトトレードがすべてではなく、商社との関係性を大事にする方も一定数いらっしゃるということもあわせてつけくわえておきたいと思います。
農園のすがた
22年度は5農園11銘柄、23年度は5農園8銘柄の買いつけをしました。これまで「おすすめのシングルオリジン」でも各農園について詳しく紹介してきましたが、とくに印象的だった農園を改めていくつか取りあげたいと思います。
まず、エルサルバドルをまわってみて、いちばん印象的だったのはロス・ピリネオス農園です。山の頂上にある駐車場から見た景色──風が心地よく、農園をすべて見下ろせる──の雄大さは、言葉にならないほどでした。そんなロス・ピリネオスには「品種の森」という、土壌や気候に適した品種を見つけるための実験用のエリアがあります。また、一般的に苗木はビニールハウス内で管理されることが多いですが、同農園では屋外で栽培されています。しかも苗木のためだけのシェードツリーが等間隔で整然と植えられており、圧巻の光景でした。
22年度と23年度で継続して買いつけたのはミレイディ農園とトレス・ポソス農園のふたつです。どちらもアロテペック・メタパン地域のチャラテナンゴにあり、初年度のカッピングで「まずは必ずこのふたつを買いつけたい」と思った農園でもあります。とくにミレイディは、ブラインドカッピングで二年連続でいちばんおいしいと思ったコーヒーでした。私自身、50種近いコーヒーのなかから同じ農園を選んだことに驚くほどでした。初年度にミレイディを訪れた数ヵ月後に、農園主のエベル・ディアスさんが急逝してしまい、私たちはすぐにクラウドファンディングを立ち上げて支援することに決めました。その意味でも非常に思い入れが強く、翌年に奥さまが運営を引き継いだ農園の様子(ウェットミルが新設されていました)を見たときや、Cup of Excellenceで一位に返り咲いたときには、心の底から嬉しく思いました。
トレス・ポソスは、農園主のアルマンド・グアルダードさんの情熱に強く感化されました。「どんなに高値のオファーでも自分のコーヒーをテイスティングしていない人には売らない」という言葉のとおり、アルマンドさんは自身のコーヒーに強い誇りをもっています。品質向上に余念がなく、二年目に訪れた際は買いつけの話もそこそこに、農園のビジョンをお話ししてくださいました。それこそ一年目と二年目で、ドライミルの新設や新たな農地の購入など、農園がもっとも変化していたのが同農園でした。また、初年度はパカマラ種の栽培地区だけを見てまわりましたが、二年目にはゲイシャの栽培地区を見ることができました。パカマラが育てられているのは陽射しが強い場所でしたが、ゲイシャの区画は陰が多く湿潤な雰囲気で、同じ農園のなかでも品種によってちがう環境で栽培されていたことが印象的でした。
継続することでみえてくるもの
初年度はエルサルバドルのさまざまな地域をまわりましたが、二年目はチャラテナンゴを中心に、一年目に買えなかった農園をまわりました。ダイレクトトレードをサポートしてくださるサルヴァドルコーヒー評議会(現サルヴァドルコーヒー協会)の方にも私の好みが伝わったのか、二年目のカッピングの内容はかなり変化してチャラテナンゴのコーヒーばかりが並んでいたのです。買い手の好みを把握して適した豆を提案する高いスキルをもっているんだと感じました。じっさい、私自身、チャラテナンゴのなかでもとくにラ・パルマという地域のコーヒーが特別に好きなんだということに気づいたため、今後さらに深掘りしていきたいと思っています。
同じ傾向ばかりになりすぎないように新しいコーヒーをつねに探したいと思っていますが、いま取引をしている農園からもある程度の量を買いたいとも考えています。そのバランスは本当に難しいところで、だからこそ店舗数をもっと増やして多くの豆を買えるようにならなければいけません。
私たちは、毎年継続した目標として、前年よりも多くのコーヒーを買うことを掲げています。ちょうどこの原稿を準備している今年の二月もエルサルバドルを訪れることが決まっており、すごくワクワクしています。来月は速報をお届けできればと思っておりますので、楽しみにお待ちいただければと思います。
オリジナルマガジン "Pneuma" ISSUE21 より抜粋
連載6回目「VOL.6 3年目の旅路」は、こちらからご覧いただけます。