【Episode of El Colorido: Vol.3】 味の彩りをつくる
エル・コロリドは、生産者、消費者、自然環境のすべてにとってGOODで、サスティナブルであることを目指して活動するGOOD COFFEE FARMS(以下、GCF)による「My Farm契約」プロジェクトから生まれたコーヒーです。
2022年2月、私たちは農園のひと区画をお借りしたグアテマラのハラパ県にあるナランハレス農園を初めて訪れました。第三回となる今月は、私たちが現地でおこなった生産処理とコーヒーの味わいについてご紹介します。
私たちは農園を訪れる前から、収穫したチェリーを4つのロットにわけ、生産処理をとおしてさまざまな味わいを表現したいと考えていました。すなわち、伝統的なナチュラルプロセスとハニープロセスと、現代的な嫌気性発酵(アナエロビック・ファーメンテーション)をおこなったナチュラルとウォッシュドの4種類の処理をおこなうことにしました。
生産処理とは、コーヒーの果実から種子(コーヒー豆)を取りだし、種子の水分量が11%程度になるまで乾燥させる工程のことをさします。ナチュラルやハニー、ウォッシュドといった処理方法の分類は、乾燥する前に果皮や果肉、粘着質をどの程度除去するかによって決められています。それは種子がおかれた環境のちがいによって、乾燥過程で起こる常在菌による自然的な発酵の強度や時間が変化し、コーヒーの味わいがつくられてゆくからなのです。
伝統的なナチュラルプロセスとハニープロセスは、収穫して水洗いしたチェリーをパティオと呼ばれるコンクリートなどでつくられた乾燥場で天日乾燥させる方法が一般的です。しかし私たちは、あえてアフリカンベッドという木製の棚にネットを張って通気性をあげた高床式の設備を使い、さらに陰干しを採用しました。そのことで温度上昇を抑え、時間をかけて均一な乾燥をおこなうことができるため、酵母や菌の活動期間が延び、奥行きのある味わいがえられます。
いっぽう、アナエロビック*1は比較的新しく注目を集めている処理方法で、通常の生産処理の前に密閉されたタンクのなかで人為的な発酵をおこなうことで特徴的な味わいがえられます。発酵度をpHで管理できることも大きな特徴のひとつで、私たちはまず現地でサンプルをカッピングし、これまでアナエロビックの豆を飲むことで培ってきた経験や基準と照らしあわせながら決めていきました。
アナエロビックのナチュラルとウォッシュドでは、それぞれ発酵による味の出方が異なります。ナチュラルは発酵が進むほど香りがフルーティーさを増し、ワイニー*2に傾いていきますが、進みすぎると味噌や発酵食品のような香りが出てしまいます。ウォッシュドの場合、フレーバーの質はそれほど変化しませんが、酸味の強さが変わってゆきます。
私たちにとって生産処理をおこなうこと自体が初めての挑戦であることにくわえ、お借りした設備では発酵環境の温度コントロールができないため、とくに失敗するリスクのあるアナエロビック・ナチュラルは早めの段階で発酵を止めることにしました。いっぽうウォッシュドは、明るい酸味のコーヒーを目指して発酵度をかなり高めに設定しました。
さて、グアテマラのコーヒーの味わいにかんして、現地を訪れて驚いたことがひとつあります。グアテマラのコーヒーといえば、シトラスのような柑橘系のフレーバーとまろやかな口当たりというイメージが真っ先に思い浮かびますが、農園でカッピングをするとトロピカルフルーツのフレーバーが感じられたのです。詳しく調べてみると、そうした味わいのちがいは、栽培されている品種によってもたらされたものだということがわかりました。
アラビカ種のコーヒーは「ブルボン種」と「ティピカ種」の二大原種にわけることができます。一般的にグアテマラで多く栽培されているのは、カトゥーラやカトゥアイのようなブルボン種に由来する品種ですが、GCFがハラパ地域で主に育てているのはパチェというティピカ種の変異種でした。ティピカ種はトロピカルフルーツを思わせる明るい酸が特徴的な品種です。つまり、農園でカッピングした際に感じたフレーバーはハラパで育ったパチェ種がもたらす味わいだったのです。
私たちが借りているひと区画には、パチェ、パカス、カトゥアイ、カティシックという4品種の木が植わっています。My Farm契約では生産処理だけでなく木の植え替えも独自におこなうことができるため、将来的に実現したいと思っていることのひとつでもあります。
コーヒーの味づくりにおいて、生産処理と品種がもっとも大きな要素であることはいうまでもありません。その両面からアプローチできるMy Farm契約は、非常に有意義な試みであると感じています。
2年目を迎えた今年はアナエロビック・ナチュラルの発酵度をわずかに進めた処理をおこないました。毎年農園を訪れ、数年後にはどんなコーヒーができるのかと想像すること。そして、その味の彩りをみなさんにお届けできる日を想像すること。それが私自身にとってもこのうえない楽しみであり、その想いをこめてスペイン語で「カラフル」を意味する「エル・コロリド」という名前をつけることにしたのです。同じ農園、同じ品種のコーヒーでもさまざまなに異なる「味の彩り」を楽しんでいただければと思います。
*1 アナエロビック:正式には「嫌気性の」という意味をもった形容詞だが、慣例的に嫌気性発酵(アナエロビック・ファーメンテーション)をさす言葉としても用いられている。
*2 ワイニー:ワインのようなフレーバー
オリジナルマガジン "Pneuma" ISSUE15 より抜粋
連載4回目「VOL.4 来るべき理想に向かって」は、こちらからご覧いただけます。