記事: BEANDY Silk Dripper - ETHIOPIA KARMACHI GESHA1931

BEANDY Silk Dripper - ETHIOPIA KARMACHI GESHA1931
クリーンで華やかな香りに、綺麗で滑らかな口当たりと自然な甘さが、余韻をゆっくりとひろげてゆく──。今回ご紹介するエチオピア/カルマチでは、そんなGesha1931 品種とカーボニック・マセレーションが生み出す味わいを引きだすために、抽出レシピを組んでみました。
まず、粉の層が薄く、均一な抽出がしやすいBEANDYシルクドリッパーを使用し、抽出のトータルタイムも短くすることでビター感を軽減し、フローラルな印象を実現しています。また、二投目の湯量を増やして甘さを引きだし、味の構成を整えています。その結果、さらにフローラルな香りや甘さが引き立ち、雑味なく洗練された味わいに仕上がります。ぜひ、お試しください。

使用器具:BEANDY Silk Dripper
粉量 / 粒度:16g / 中挽き (TIMEMORE C3S 16クリック)
湯温 / 湯量:90°C / 240 g (白神山地の水)
時間 - 総湯量 (注湯量)
0 : 00 - 40g (40g)
0 : 40 - 80g (120g)
1 : 20 - 60g (180g)
1 : 45 - 60g (240g)
「エチオピアで素晴らしいロットに出会った」──そう教えてくれたのは、親しくしている北池袋・WAVY COFFEEのバイヤーでした。個人や小規模店舗が単独で買い付けるには量が多すぎると相談を受け、彼の力になれないものかと思った私たちは、一にも二にもまずは味わってみることにしました。
そして、カップから立ち上る香りをひと口味わった瞬間、迷うことなく「一緒に買おう」と決めていました。
カップから漂うのは、ジャスミンやラベンダーの華やかな香り、ラズベリーやチョコレートを思わせる甘く濃密なアロマ。香りが複雑に層をなして、口のなかでも余韻が静かにひろがっていきます。
今回ご紹介するエチオピア/カルマチがもつ香りの豊かさには、いくつかの秘密があります。
ひとつめは、エチオピアのなかでも特別な名を冠した「Gesha1931」という品種そのものがもつ“香りの記憶”。
物語は、1931年のエチオピア南西部に遡ります。深い森の奥──ゲシャ村近郊の原生林で、ひと握りのコーヒー種子が英国の植物研究者によって採集されました。その種は長い旅を経て中米へと渡り、やがてパナマの地で「Geisha(ゲイシャ)」と呼ばれ、世界を驚かせる香り高き品種へと進化を遂げました。
Gesha1931は、時を経て、その原点の森のなかでゲイシャとよく似た風味や姿をもつ個体が選び出されて育まれた品種です。同じ個体ではないものの、まるで“遠く離れて育った双子”のように、Gesha1931とゲイシャは、驚くほど多くの共通点をもっています。芳香成分の構造をみても、Gesha1931には、ジャスミンのような香りを生むリナロール、柑橘を思わせるリモネンといった、ゲイシャと同様の香り成分が豊かに含まれており、一杯のカップのなかでその魅力がそっと花開くのです。
ふたつめは、カーボニック・マセレーションという革新的な発酵技法。ワインの醸造手法を援用したこの生産処理では、収穫したチェリーを炭酸ガスで満たしたタンクに密閉し、酵母や乳酸菌による制御発酵を促します。この過程によって、ジューシーでフルーティーな甘さが引き立ち、渋みや雑味のない、きれいな後味が生まれます。さらに、果肉を残したままゆっくりと天日で乾燥させるナチュラル・プロセスを掛け合わせることで、芳醇な果実感と透明感のある酸が同居した、立体的な味わいに仕上がります。
そしてみっつめの秘密は、生産者の姿勢です。このコーヒーを生産しているトラコン・トレーディング社は、「自然がつくる味を、人が引き出す」という考え方のもと、農園の運営と精製をおこなっています。彼らは、効率や量を追い求めるのではなく、徹底して品質を重視したアプローチをおこなっています。たとえば発酵にかんしても、日々pH・温度・糖度といった数値を綿密に管理しながら、発酵の状態を正確に捉え、最適なタイミングで工程を進めています。すべては、品種・土壌・気候がもつポテンシャルを最大限に引き出すためであり、ロット単位で管理された丁寧な精製は、大規模生産では成しえないクオリティを実現しています。
Gesha1931という品種の香りの芸術性。カーボニック・マセレーションという革新。そして、土地と人の情熱。それらが織りなす一杯のコーヒー。その香りの奥には、もう一歩深い体験が待っています。どうぞ、ご自身の感覚で味わってみてください。