【DIRECT TRADE WITH EL SALVADOR VOL.3】エルサルバドルコーヒーとトレンドの転換期
私たちウッドベリーコーヒーは「コーヒーに携わるすべての人が豊かになること」を目指しています。【EPISODE OF EL COLORIDO】の連載で取りあげた「グアテマラ/エル・コロリド」もまた、その目標を実現するための取り組みのひとつでした。グアテマラを訪れた私たちはそして、もうひとつの夢であったダイレクトトレードをおこなうべく、エルサルバドルへと向かいました。
この連載では、私たちがおこなったエルサルバドルとのダイレクトトレードについてお伝えしていきたいと思います。
生産者を支える「サルヴァドルコーヒー評議会」
前回お伝えしたように、エルサルバドルは2012年のサビ病被害や国際的なスペシャルティコーヒー市場の成長を受け、国をあげて生産量よりも質を重視するコーヒー栽培へと方針を転換しました。その結果、エルサルバドルのコーヒー全体におけるスペシャルティコーヒーの割合は、2011/2012年の52.1%から、2022/2023年には78.5%まで増加しています。その成果は生産者の努力があってこそですが、それを支えたのは「サルヴァドルコーヒー評議会」(Salvadoran Coffee Council、CSC)という機関の存在でした。
CSCはコーヒーにかかわる政策の立案と指導を主な目的とした、独自の法人格をもつ自治国家機関です。わかりやすく喩えるなら、国直属のコーヒーコンサルタント会社のような存在といえるでしょうか。たとえば土壌の分析をおこない、その土地に適した品種を薦めたり、国中の農園から集めた品種や生産処理についての情報を共有したりして、各農園にとって最大限利益が出るような提案をおこなっています。私たちのダイレクトトレードをサポートしてくれたのも、ほかでもなくCSCの方々でした。
CSCの提案を採用するかは農園の判断に委ねられていますが、私たちが直接お話を伺った限りでは、ほとんどの農園が納得して受け入れているようでした。むしろその団結は固く、品質を上げようという意識が生産者に行き届いているのを感じます。彼らがひとつになってコーヒー栽培に真摯に取り組む様子はとても印象的でした。
「サルヴァドルコーヒー評議会」と「サルヴァドルコーヒー協会」の誕生
1989年にCSCが設立された当初は「国立コーヒー研究所」(INCAFÉ、1979〜1994年)という目的の異なる機関が存在し、彼らはコーヒーの購入や加工、輸出を民間人と対等な立場で自由競争をおこなうことで生産者利益のための価格適正化に貢献していたそうです。しかし、全国の生産地域や生産国・消費国の信頼を得るためには、コーヒー政策を主導するオーソリティーをもった国家機関が必要となり、CSCが生まれたのです。
2023年にCSCは、新たに設立された「サルヴァドルコーヒー協会」(Salvadoran Coffee Institute、ISC)に統合されるかたちで移行しました。CSCの機能はそのままにISCの役割はさらに多岐にわたり、技術開発や技術革新、生産性や品質の向上、気候変動への対策、農園の環境づくりや生産コスト削減など、コーヒーにかかわる人びとすべての利益を図るために、技術的、科学的、商業的なあらゆる支援を提供しているそうです。ISCの設立によって、エルサルバドルのコーヒー産業のさらなる発展が期待されています。
トレンドの転換期
世界的にみてもいまはコーヒーのトレンドの転換期です。各国がアナエロビック・プロセス(以下、アナエロビック)を導入したり、植え替えを積極的におこなっていることからもそれは明らかでしたが、私は十分に背景を理解できていませんでした。というのも、アナエロビックのコーヒーが増加しはじめたころ、私は単にユニークなフレーバーが世界的に人気を集めているものだと思っていたのです。ところが、ダイレクトトレードをとおして初めて、アナエロビックは気候変動によって減少した生産量を付加価値をつけることで補うために選択された手段でもあったことに気づきました。アナエロビックによる味の向上は、絶えず変化を求められる生産者の努力の結果だったのです。
ダイレクトトレードは生産者の変化にいち早く気づき、柔軟に対応できる点でも大きな意義をもちます。エルサルバドルはとくにアナエロビックを評価している国でもあり(危機感の裏返しでもあります)、生産者の方々は私たちの意見も積極的に聞きとって今後の農園管理に活かそうとされていました。また、そのようにして生産者と話をするなかで「もっと日本にコーヒーを届けたい」という想いを感じました。日本はエルサルバドルのコーヒー輸出先としてアメリカ(41%)とEU(23%)に次ぐ3番目(4%)に位置しながらも、とくに品質を最も高く評価する市場であり、総輸出量の99%をスペシャルティコーヒーが占めています。直近のCOEでも、オークションにかけられた33ロットのうち16ロットを日本が購入したそうです。
東京には星つきレストランが世界で最も多いといわれるほど、日本は食への探究心が強い美食大国です。味わいに対して高い意識をもっているからこそ、あとすこし視野をひろげるだけで生産国の状況への理解を深めることもできるのではないかと思います。私たちが今後も継続してお届けするエルサルバドルのコーヒーから、変化に対して積極的な彼らの姿をすこしでも感じとっていただければ嬉しいです。
*記事作成にあたって、エルサルバドル大使館にご協力いただきました。御礼申し上げます。
オリジナルマガジン "Pneuma" ISSUE19 より抜粋
連載4回目「VOL.4 6つの生産地域とパカマラ種」は、こちらからご覧いただけます。