記事: 【Episode of El Colorido: Vol.1】 グアテマラへ─コーヒー生産の険しい道のり
【Episode of El Colorido: Vol.1】 グアテマラへ─コーヒー生産の険しい道のり
この連載では、ウッドベリーコーヒーのオリジナルブランド豆であるエル・コロリド(El Colorido)が生まれるまでの物語について。実際に現地訪れた際の農園の姿や生産過程、コーヒー生産にかかわる想いを綴りながら、全4回にわけてお伝えしていきます。
エル・コロリドは、生産者、消費者、自然環境のすべてにとってGOODで、サスティナブルであることを目指して活動するGOOD COFFEE FARMS(以下、GCF)による「My Farm契約」プロジェクトから生まれたコーヒーです。私たちはプロジェクト第一号の契約を結び、グアテマラのハラパ県にあるナランハレス農園の一区画をお借りし、収穫から生産処理までを行っています。
私たちがグアテマラを訪れたのは2022年の2月でした。成田空港を夜に出発し、ロサンゼルスを経由してグアテマラシティに到着するのは現地時間の早朝。ほぼ一日かかる空路を経て、そのまま南東部にある農園へと向かいます。グアテマラ全体は山に囲まれ、舗装された道路がいくつかの都市を結び、その先は山道が続いています。山道に入ってからはガタガタの道に2時間ほど揺られ、農園に到着するころにはお昼を過ぎています。
1週間ほどの日程のほとんどを農園で過ごすため詳しく見てまわることはできませんが、それでも印象的な様子はいくつか思い出されます。
グアテマラシティは東京と変わらないほどの都会で、高い建物や近代的な建物もたくさんあります。しかし基本的な衛生状態はわるく、落ちているゴミが線を描いていることも。また、道路がひろいわりに信号が少なく、交差点で混雑することもしばしばで、そのなかをチキンバスというデコトラのような派手なバスが走っています。GCFの現地スタッフから「日本人だと気づかれるな」と注意を受けていたためチキンバスには乗りませんでしたが、そうした話からも治安も決してよくないということがわかります。
じつは私自身は、5年前に一度グアテマラを訪れたことがあります。そのときは空港正面の中央分離帯に立った人が構えている銃が放つ、あまりの冷たい空気感に驚きました。痩せたシェパードがあたりを歩いていたり、初めての訪問時には命の恐怖を感じたというのが正直な感想でした。
貧困問題を解決するためにダイレクトトレードが一定の役割を果たすいっぽうで、取引が行える農園はすでに資本をもった方々が多く、正当な対価を支払ったとしても貧困層へのアプローチに直接つながるかといえば、難しい側面があります。グアテマラの大半の生産者はコマーシャルコーヒーを作っていますが、貧困層の方々は設備のある農園をもっていません。周辺に生えている木からピックしたチェリーをコヨーテと呼ばれる回収屋に売り、コヨーテはひとつの地域から買い集めたものを、高価な設備を備えたエクスポーター(輸出業者)に販売します。つまり、生産処理が行えるエクスポーターしかコーヒーをお金に変えることができないため、小規模農家が搾取されつづけているという、コーヒー生産にかかわる構造的な問題が根強く残されています。
その状況を変えるためには、エクスポーターを介さずにコヨーテや生産者と直接コミュニケーションを取らなければいけません。しかし、彼らの大半は文字の読み書きができず、意思疎通が難しいという別の問題が存在します。もちろん輸出の知識ももっておらず、教育を行わない限りは問題を解決することはできません。
GCFが画期的なのは、コマーシャルコーヒーの生産者に「自転車脱穀機」というエコで安価な設備を貸すと同時に、輸出の方法やコーヒーの品質を上げるための知識を共有し、教育を行うことを活動の中心としているからです。そうして生まれたスペシャルティコーヒーは日本で販売され、相応の対価が生産者に届きます。その規模が大きくなればなるほど品質も向上し、貧困層の減少につながる期待がもてるのです。
グアテマラの農園を訪れる旅は、コーヒー生産の構造に直接的にアプローチするGCFの活動に触れ、販売する立場から参加することでもあります。コーヒーの「量」ではなく「質」に価格がつくスペシャルティコーヒーはまだまだ新しい市場です。GCF発足当初は、その認識を農園の方々にもっていただくことに苦労したと聞きましたが、実際に農園を訪れた私たちもそのことを実感しました。
農園と消費者、相互に新しい価値観の認識をひろげてゆくことが、コーヒーにかかわる人々を豊かにすることにつながります。私たちは、新しくできたエル・コロリドの味わいを通して、スペシャルティコーヒーの意義や価値をみなさまにお伝えしていきたいと考えています。