記事: HARIO V60 NEO - COLOMBIA LA NATURA / WUSHWUSH CEREZA HONEY

HARIO V60 NEO - COLOMBIA LA NATURA / WUSHWUSH CEREZA HONEY
華やかな香りと透明感のある酸味。そこに乳酸を思わせる柔らかな口当たりと甘みを両立させる。このコーヒーがもつ多層的な魅力を、もっとも美しい状態でカップに落としこむためのレシピです。
使用器具はHARIO V60 NEO。湯抜けの速いドリッパーを使い、3投のレシピとしては注湯感覚を短めに設定することで、抽出後半に出やすい苦味やエグ味などの阻害要因が溶け出す前に切り上げ、酸の明るさを際立たせます。さらに、前半の注湯で明るい酸にフォーカスしつつ、2投目の注湯量を最大にすることで、酸味のあとにつづく「柔らかな甘み」のボリュームを意図的につくっています。
また、抽出比率を1:15にすることで、このコーヒー特有の乳酸のような滑らかな口当たりを表現し、密度の高い味わいをキープしています。
そうして仕上がったコーヒーは、口に含んだ瞬間、華やかさと洋梨を思わせる風味がひろがります。特筆すべきは、乳酸のような滑らかな舌触り。温度が落ち着くにつれて、プラムやドライプルーンのような深みのある酸と凝縮された甘みが顔を出し、最後は心地よいチョコレートの余韻が長く続きます。「明るさ」と「柔らかさ」が共存する一杯です。ぜひお楽しみください。


ウシュウシュ (Wush Wush) という品種をご存知でしょうか。日本で名前を見かけるようになったのは2017~18年ごろだったと思います。話題にはなっていましたし、見かけるたびにカップも取っていました。ただ、なぜか距離が縮まらない。決め手を見つけられないまま時間だけが過ぎ、気づけば2025年になっていました。
それが変わったのは、コロンビアの研究施設「カラーズ・オブ・ネイチャー」がおこなっていたカッピングです。ゲイシャ、ピンク・ブルボン、ジャヴァ、そしてウシュウシュ。同じテーブルに並んだコーヒーのなかで、このウシュウシュだけが印象に残りました。
明確なフローラル、デリケートで複雑な酸味。味の輪郭が最後まで崩れず、静かに続いていく。その存在感が、強く記憶に残りました。ロット情報を見ると標 高は2,250m。コロンビアではほとんど目にしない高さです。「この標高なら、ゲイシャのスコアがもっと伸びてもよいはずなのに」。そんな小さな違和感があり、思い切って農園主のフェリペさんに、その印象を率直に伝えてみました。すると彼は、すこし考えてからこう返してくれました。
「正直に言うと、うちのゲイシャはあまり美味しくない。本当によく育つのは、西側の山脈なんだ」
その言葉は、品種を否定するというより、この土地を長く見てきた人の率直な実感だったのだと思います。そして不思議なことに、カップで感じた印象と、その評価が重なっているように感じました。理屈ではなく、「ここはそういう場所なんだろう」と、感覚的に受け取ることができました。
本当のことをいえば、私はこれよりも美味しいコロンビアのゲイシャを、いくつも知っています。でも、ウシュウシュにかんしてはこれ以上のものを知らない。美味しさを比較してというよりも、その環境がウシュウシュという品種をいちばん素直に、正しく育てている。そんな感覚に近いと思います。

2025年末、Qプロセシングコースを受講するためコロンビアを訪れました。私はその答えを確かめるように、お願いをしてラ・ナチュラ農園にも足を運びました。想像していた険しい山奥とは違い、なだらかな斜面に、余裕をもって植えられたコーヒーノキがひろがっていました。
農園内には、生態回廊と呼ばれるエリアが点在しています。森と森をつなぐために意図的に残されたその場所では、絶滅危惧種のケツァールが巣をつくり、新種のランも見つかったそうです。農園をひろげるより、森をどう残すか。その選択が、この場所では当たり前の前提になっていました。
ラ・ナチュラ農園は、2015年に放棄されていた有機農地から始まった農園です。先に森を残す方法を考え、そのなかでコーヒーを育てる。標高や気温といった数値以上に「どんな自然を未来に残すか」という人の意思が環境を整え、その積み重ねが、味をかたちづくっています。
農園を歩き、空気を吸い、フェリペさんの話を聞くなかで、かつておぼえた違和感は、静かな確信に変わっていきました。この土地では、無理に主役をつくる必要はない。土地に合った品種が、自然に力を発揮すればよい。その答えのひとつが、このウシュウシュなのだと思います。流行や派手さではなく、時間をかけて納得できるものを選ぶこと。自然と人が向き合い、時間や意思を積み重ねた先に生まれる味わいを、私たちは大切にしたいと考えています。

農園ではモチャという、驚くほどチェリーが甘い品種も育てられていました。味だけをみれば、とても魅力的な品種です。ただ、収量が極端にすくなく、手間もかかるため、今後は植え替えを進めていく予定だと話してくれました。その話を聞きながら、「もし、この魅力がきちんと価値として評価される市場があれば、残る道もあったのかもしれない」と思わずにはいられませんでした。どんなに素晴らしい味でも、続かなければ畑には残らない。そこには自然条件だけでなく、市場の現実も含めた、避けられない摂理があります。ラ・ナチュラとの対話と継続的な関係のなかで、このウシュウシュをお届けできることを、私たちはとても嬉しく思っています。
ぜひ一杯の時間をゆっくり取り、このコーヒーが生まれた背景にも、耳を傾けてみてください。







