








コロンビア ラ・ナチュラ農園 ウシュウシュ セレサ・ハニー
花ひらく香り、静かにほどける余韻
口に含んだ瞬間、ふわりと花が咲くように立ち上がるフローラルの香り。続いて現れるのは、洋梨やグリーンアップルを思わせる瑞々しい果実味、そしてライチのように澄んだ甘さ。時間の経過とともに、ハチミツのような粘度を感じる甘みが現れ、やがて緑茶の穏やかな余韻へと静かに溶け込んでいく……。
一口ごとに多層的な表情をのぞかせながら、味わいは驚くほど調和しています。これは品種や発酵技術といった要素だけでは語りきれません。土地と真摯に向き合い続けてきた時間、そして積み重ねられてきた確かな選択、そのすべてが、このロットの味わいを形づくっています。
感じられるフレーバー
森の偶然を、必然へ
ウシュウシュ(Wush Wush)という品種をご存知でしょうか。
ウシュウシュは、もともとエチオピアの森に自生していた複数の異なる品種の総称。自然交配などによりさまざまな特徴を持っていたため、味が不安定だと思われがちな品種でもありました。
ラ・ナチュラ農園のフェリペ・オスピナ氏は、その多様性の中に、空に向かって高く伸びる系統と、地に近い位置でコンパクトに育つ系統があることに着目し、特定の種のみを選定し、あらたな栽培をはじめます。
植物にとって、成長に使えるエネルギーは限られています。高く伸びる系統は、幹や枝葉を広げることに多くのエネルギーを費やします。一方で、背の低い系統は、成長に必要なエネルギーを最小限に抑え、その分を果実の成熟へと注ぎ込む構造を持っていました。
フェリペ氏が下した判断は、最も効率よく甘さを果実へと届けられる“背の低い系統”だけを特定するということ。その上で「なぜこの香りが生まれるのか」「なぜこの甘さにたどり着くのか」その因果関係を一つひとつ整理し、結果が再現されるものだけを残すという選別を行いました。
現在、ラ・ナチュラ農園で栽培されているウシュウシュは、この特性を持つ系統に限定されています。本ロットが持つ華やかさと密度のある甘さは、その選択の積み重ねが生み出した、必然の味わいなのです。
森を残すところから始まった農園
ラ・ナチュラ農園は、2015年に放棄されていた有機農地から始まりました。多くの場合、農園の再生は「どれだけ効率よく植え、どれだけ収量を上げるか」から考えられます。しかし、ここでは順番が逆でした。
まず考えられたのは、"森をどう残すか"。農園内には、生態回廊(リビング・コリドー)と呼ばれるエリアが点在しています。これは森と森を分断せずにつなぐため、意図的に残された原生林の帯です。その中では鳥や昆虫、微生物が行き交い、農園全体が一つの生態系として機能しています。
コーヒーは、この環境の「中心」ではなく「一部」。自然を管理するのではなく、土地のポテンシャルが持続する構造を整える。ラ・ナチュラ農園のコーヒーづくりは、最初からその思想に基づいています。
静かな高地が育てる、時間の密度
コロンビア南部、ウィラ県サン・アグスティン。この地域は、古くからクリーンでバランスの取れたコーヒーを安定して生み出してきた産地として知られています。ラ・ナチュラ農園は、その中でも標高2,250mという、コロンビアでは稀な高地に位置しています。
この土地を特徴づけているのが、冷涼な気温、昼夜の大きな寒暖差、そして頻繁に立ち込める霧です。これらの条件は、コーヒーチェリーの成熟をゆっくりと進めます。気温が低く、昼と夜の温度差が大きいほど、果実は一気に色づくことができません。そのため、一般的な産地と比べて、成熟にはおよそ一か月長い時間がかかります。
しかし、この「遅さ」こそが、味わいの核となります。時間をかけて熟すことで、果実の内部では糖分や風味成分が少しずつ蓄積されていきます。その結果、チェリーの中には厚みのあるミューシレージ(果肉の内側にある、粘性のある甘い層)が形成され、種子の内部には、角の取れた透明感のある甘さが静かに定着していくのです。
さらに、この環境を陰から支えているのが、生態回廊によって保たれた微気候です。森が分断されずに残ることで、急激な気温変化や乾燥が抑えられ、湿度や気温が穏やかに保たれます。こうした小さな気候の安定が、チェリーの成熟という繊細なプロセスを、毎年ぶれることなく支えています。
発酵を、待たずに設計する
セレサ・ハニー(Cereza Honey)は、一般的なハニープロセス(果肉を除去した後、粘液質を一部残したまま乾燥させる精製方法)をさらに発展させたコーヒーの精製手法です。最大の特徴は、コーヒーチェリーを収穫した段階で発酵の方向性を設計する点にあります。
発酵は専用のタンク内で行われ、畑や周囲の環境に由来する自然な微生物に加え、目的に応じて選び抜かれた乳酸菌と酵母を意図的に投入します。
乳酸菌は、穏やかでなめらかな酸を生み出し味わいの輪郭を整える役割を担います。一方、酵母はフルーツや花のような香り成分を引き出し、香味の奥行きを広げます。どのような風味を表現したいのかを明確にしたうえで、発酵がコントロールされた形で始まります。
発酵中の温度は低めに保ち、時間も短く設定されます。これは、発酵による過度な個性や雑味を避けつつ、必要な複雑さだけをコーヒーに残すための設計です。
発酵を終えたチェリーは果肉を取り除かれますが、その時点でミューシレージ(果肉と種子の間にある粘液質)はすでに分解が進んだ状態になっています。その結果、霧が多く湿度の高い高地環境でも乾燥がスムーズに進み、ロットごとのばらつきが少ない、再現性の高い品質を維持することができるのです。
このWushWushを選んだ理由
WushWushという品種を初めて意識したのは、2017〜18年頃でした。話題になることも多く、何度もカップは取ってきたものの、なぜか決め手を見つけられないまま時間だけが過ぎていました。
その印象が大きく変わったのは、コロンビアの研究施設 Colors of Nature で行われたカッピングです。GeishaやPink Bourbon、Javaと並ぶ中で、WushWushだけが強く記憶に残りました。明確なフローラル、繊細で複雑な酸、そして最後まで崩れない味の輪郭。その静かな存在感に惹きつけられました。
標高2,250mというロット情報を見て農園主のフェリペさんに率直な印象を伝えると、彼は「この土地ではGeishaよりWushWushがよく育つ」と話してくれました。その言葉は理屈以上に、カップで感じた感覚と重なり、「ここはそういう土地なのだ」と腑に落ちた瞬間でした。
正直に言えば、コロンビアには素晴らしいGeishaがいくつも存在します。けれど、ことWushWushに関しては「これ以上のものを知らない」と感じています。この環境が、WushWushという品種の力を最も自然に引き出している。そんな印象でした。
2025年末に訪れた La Natura Farm は、森をどう残すかを起点にコーヒーづくりを行う農園です。生態回廊が保たれ、希少な動植物が共存する環境の中で、標高や気温といった数値以上に、人の意思と時間の積み重ねが味を形づくっていることを実感しました。
この土地では、無理に主役をつくる必要はありません。土地に合った品種が、自然に力を発揮すればいい。その答えのひとつが、このWushWushなのだと思います。
流行や派手さではなく、時間をかけて納得できるものを選ぶこと。自然と人が向き合い、意思を積み重ねた先に生まれる味わいを、私たちは大切にしています。
La Naturaとの対話と継続的な関係の中で、このWushWushをお届けできることを、私たちはとても嬉しく思っています。ぜひ、ゆっくりとドリップしながら、このコーヒーが生まれた背景にも耳を傾けてみてください。(バイヤー 佐藤)
【生産国】コロンビア
【地域】ウィラ県 サン・アグスティン
【農園】ラ・ナチュラ
【生産者】フェリペ・オスピナ
【標高】2,250m
【品種】ウシュウシュ
【プロセス】セレサ・ハニー
【焙煎度】浅煎り
Country:Colombia
Region:Huila
Farm:La Natura
Producer:Felipe Ospina
Altitude:2,250m
Varietals:Wush Wush
Process: Ceresa Honey
Rost Level:Light Roast
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コーヒー豆は、チャック付バッグに入れてお届けいたします。
背面にはコーヒー豆の焙煎日が記載されています。
<美味しく飲む目安>
ハンドドリップ:焙煎から2〜3週間くらいが豆の持つ風味がバランスよく感じられます。
エスプレッソ:焙煎から3週間前後くらいが甘さを感じやすく、ミルクとの相性もよく感じられます。
焙煎後2ヶ月くらいまでを目安にお召し上がりください。
<長期保存について>
飲みきれない場合は密閉容器で冷凍保存がおすすめです。
冷凍保存の場合は、半年ほどの期間を目安にお召し上がりください。
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