記事: HARIO V60 - ECUADOR LA JOSEFINA / SIDRA ANAEROBIC FERMENTATION WITH MOSTO

HARIO V60 - ECUADOR LA JOSEFINA / SIDRA ANAEROBIC FERMENTATION WITH MOSTO
シドラ種のもつパッと花開くような華やかさと、マスカットや洋梨を思わせる明るい酸味を表現するためのレシピです。リブのあるHARIO V60を使用し、注ぎ方を工夫することで、ジューシーな果実感とクリーンな後味を両立させた一杯を目指します。
レシピの核となるのは、3回目の注ぎを意図的に外周にかけるというひと工夫です。抽出の後半は複雑さをつくるかわりに、苦味などの阻害要因も多く抽出してしまいます。1回目、2回目の抽出で味をしっかり引き出したあとで、3回目をあえて外周に注いでバイパス(コーヒー粉にお湯を通さず濃度を調整すること)させることで、華やかさと明るい酸味を際立たせています。
そうして仕上がったコーヒーは、あたたかいときはフローラルや洋梨を思わせるパッとした印象を感じさせ、温度が下がるにつれて林檎やメープルのような透明感のあるフレーバーへと変化していきます。シドラらしい明確な華やかさと明るい酸味を最後まで心地よく楽しめる一杯です。


Origin
私はこれまで、希少品種のシドラに出会うたび、その素晴らしい風味に惹かれながらも、あまりに高騰した価格に突き放されるような諦めに近い感覚を抱いてきました。 たしかにカッピングテーブルに並べば、その風味は他の品種よりも頭ひとつ抜けて素晴らしい。しかし、提示される価格は「頭ふたつ」抜けている。名前が独り歩きし、品質に対して価格の跳ね上がり方が急峻すぎるのです。
私にとってシドラは、自信をもってお客様に推奨できる確証が得られない「コストパフォーマンスの悪い存在」でした。評判に実力が追いついていないのではないか。その違和感が拭えず、シドラの本来あるべき姿を探しつづけ、ようやく出会ったのが、エクアドル/ラ・ホセフィーナ農園のロットでした。
カッピングボウルから立ち上がる香りは、シドラ特有の複雑な酸と透明感を湛えていました。なにより私が驚いたのは、その品質と価格がともに「日常の延長線上」にあると感じられ、私たちの定める毎月の推し豆のレンジにあったことです。高価格帯のシドラが、味わい的にも希少性を演出し、価格の正当性を主張するのに対し、このロットは複雑な酸質と透明感が素直に表現されていました。品質と価格の曲線が、歪みなく適正な位置で交差している。「このシドラなら自信をもって紹介できる」と思いました。
私がシドラに惹かれていたのは、品種開発から栽培まで、すべてがエクアドルの地で完結しているという「純度の高さ」です。パカマラがエルサルバドルを象徴する品種であるのと同じように、シドラはエクアドルの地で生まれ、その風土のなかで磨きあげられた品種です。
ラ・ホセフィーナ農園は、そのルーツに対する誇りを胸に、徹底した管理体制を敷いています。一般的に、手頃な価格帯のロットは管理が杜撰になりがちです。効率が優先され工程が簡略化されることで、味の輪郭はぼやけてしまう。それがコーヒー市場における「安価な豆」の避けられない現実でもあります。しかし、ラ・ホセフィーナ農園は、その価格帯に甘んじることなく、シドラのアイデンティティを死守するため、たゆまぬ努力を注いでいます。その積み重ねがあるからこそ、価格を維持しながらシドラ本来のポテンシャルを損なうことなく表現することができているのです。
たんに珍しい豆を安く提供するためではありません。本来、高価格帯でしか得られないはずの体験の入り口を、正当な価格設計で用意すること。そこに体験と価格を設計するキュレーターとしての誠実さがあると考えました。
流行や市場のインフレに流されるのではなく、土地と品種、そしてつくり手の意思が正しくかけあわされた状態を、私たちは評価しています。直近で販売したラ・ナチュラやサゲイニがそうであったように、ラ・ホセフィーナまた、より深いコーヒーの世界へのたしかな足がかりとなります。 揺るぎないエクアドルの誇りを、ぜひあなたの日常の一杯として迎えてください。
(佐藤)

Roast
私は過去にシドラ種とティピカ・メホラード種のミックス・ロットを焙煎したことはありますが、シドラのみのロットを焙煎するのは初めてのことでした。
今回、焙煎において意識したのは、シドラらしいフローラル感や果実味を最大化することです。そのために、ウッドベリーにおける一般的な浅煎りよりもDTR(全体の焙煎時間に対して、発達段階の時間が占める割合)を短くし、エンザイマティック(酵素反応に由来する風味特性のひとつ)の消失を防ぎました。また、特殊発酵プロセスのロットなので、焦げないように初期火力もすこし低めに設定しています。
単純にDTRを短くするだけでは味わいが十分に発達せず、甘さを感じにくかったり、酸っぱい印象になってしまいます。そのため、序盤から中盤にかけてしっかりと時間を取り、前駆体 (風味のもとになる成分) を多くつくることで、短いDTRながらもキャンディを思わせる透明感のある甘さをともなった酸と、豊かなフレーバーを形成しました。
(今川)








