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記事: Learning and Sourcing Coffee in Colombia

Learning and Sourcing Coffee in Colombia <Part3>

Learning and Sourcing Coffee in Colombia

Part03 設計された味と、偶然の味――コロンビア・コーヒーの特異性 佐藤 優貴

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前回まで2回にわけてお届けしてきた「Qプロセシング2」の受講のため、私はコロンビアを訪れ、あわせてコーヒーの買いつけのために国内数カ所をまわりました。そこでみえてきたのは、中南米のほかの産地とも違う、コロンビア独自の姿でした。
先に結論めいたことをいえば、コロンビアは栽培よりもプロセスに重点が置かれた国といえるかもしれません。今回訪れたのが比較的規模の大きな企業/農園だったこともありますが、コロンビアは企業ごとに味の違いがあらわれる国だと感じました。近年、実験的なプロセスにも意欲的に取り組み、世界的な注目を集めているのも、そうした生産の特徴が関係しているのだと思います。
今回は、コロンビアのコーヒー生産の現在地をお伝えしたいと思います。

買いつけの旅

買いつけは、コロンビア北西部にあるウラオから始まりました。ウラオは、どこか北海道を思い起こさせるような開けた平地の土地でした。両サイドには山がそびえ、大きな川が一本流れている。とてものどかな田舎の風景でした。
最初にウラオを訪れたのは、この地で発見された「チロソ」という品種を扱いたいと考えていたからでした。チロソは、コロンビアを代表する品種としてゲイシャやピンクブルボンと並んで名前のあがる品種です。ウッドベリーではまだ取り扱ったことがなく、必ず買って帰りたいと思っていました。
遺伝的にはエチオピアの原生種にルーツをもち、味わいとしてはパカマラにも似て、フルーティーで味の強度が高く、ときおり華やかさもある印象です。
今回購入できたグラニート・デ・オロ農園のウォッシュドは、想像以上に華やかなコーヒーでした。2年ほど前からカッピングしており、酸が強く甘さが薄い印象をもっていたのですが、出来のよいものを見つけることができました。そのロットは実験的に発酵を短時間で済ませたもので、もしかしたら直接訪れなければ出会えなかったかもしれません。

ウラオでの買いつけを終えたあとは、国内を南下していきました。
ペレイラにあるフィンカ・ミラン、カイセドニアにある CGLE(カフェ・グランハ・ラ・エスペランサ) と、商社のラボを訪れ、カッピングを重ねていきました。
CGLEは、この数年、ウッドベリーで扱ってきたセロ・アスールやラス・マルガリータスなどの有名農園をもつ、生産者グループです。コロンビアで初めてゲイシャを栽培したことでも知られ、やはりトップブランドの農園だけあって、ラボは整理整頓がとても行き届いていました。パナマのトップ農園にも近い印象で、コロンビアのほかの新興の農園に比べても設備の充実ぶりを窺い知ることができました。
また、カイセドニアではキンディオやウィラ、トリマなどのリージョンロット(単一農園ではなく地域で生産されたコーヒーをまとめたロット) のカッピングをおこなったり、長くお付き合いを続けているナリーニョの生産者のカッピングもおこないました。
ルシタニアが生産するナリーニョのコーヒーは、今回の旅でとくに印象に残りました。ひとつはシドラという希少品種で、フローラルでさわやかな林檎のような酸味を感じられました。もうひとつは、カトゥーラで、“ザ・コロンビア・ウォッシュド”といいたくなるような、毎日飲みたいと思えるコーヒーでした。
その後は、ボゴタのラ・パルマ&エル・トゥカン(LP&ET) のラボ、ウィラのカラーズ・オブ・ネイチャーと、その裏にあるラ・ナチュラ農園を訪れ、カラーズ・オブ・ネイチャーのラボで「Qプロセシング2」を受講したのでした。


特異な生産プロセス

お気づきになった方もいるかもしれませんが、今回の買いつけは農園を訪れたというよりも企業や商社がもっているラボやミル(精製施設) をまわることがほとんどでした。
コロンビアでは、ミルをもつ企業がさまざまな農園からチェリーを買い取り、コーヒーを生産しています。その形態は、大きく3つのパターンに分類できます。
ひとつは、農園から始まり、大きく成長した企業。自社農園をもっており、企業によってはほかの農園からもチェリーを買い取ってプロセスをおこなっています。ここまでみてきた CGLE(自社農園のみ)やLP&ET、グラニート・デ・オロやナリーニョのルシタニアなど、トップ・スペシャルティには、このスタイルが多くみられます。
つぎに、自社農園をもたず、プロセスだけをおこなっている企業です。ミルを起源とした企業がこれにあたり、アロマ・ナティーヴォなど、近年頭角を現してきたスタイルです。
3つめは、エクスポーター(輸出業者)が始めた企業です。トラディショナルなコロンビア・スペシャルティといえ、リージョンロットなども生産しています。
中南米でいえば、グアテマラのコマーシャルコーヒーでも同じようにチェリーを買い取る生産形態がとられていますが、スペシャルティは違います。中南米では小さな農家が小さな農地とミルをもつことがほとんどで、シングルオリジンと聞いて一般的に思い浮かべるのは、そうしたあり方でしょう。農園規模の大きいパナマでも、栽培からプロセスまでひとつの家族がおこなっていることがほとんどです。中南米でスペシャルティを企業=ミル単位で生産している産地は、コロンビア以外ではあまりみられません。

そのうえで、冒頭に述べたように、コロンビアは企業=ミルごとの味の違いがはっきりとあらわれる、とても珍しい特徴をもった産地です (補足すると、エチオピアやケニアなどのアフリカの国々でもミル単位での生産がなされていますが、国全体である程度まとまった味わいの特徴をもっています)。
それは、上記のような生産形態にくわえ、規模の大きな企業ではプロセシングや発酵技術がシステム化されていることが大きな要因となります。極端にいえば、どんなチェリーを使っても「その企業の味」になるのです。
リージョンロットを飲んでみると、たとえばウィラは甘さの印象が強かったり、トリマやナリーニョは酸がパキッと立っていてエレガントな印象をもっていたり、テロワールによる味の違いがないわけではありません。しかし、シングルオリジンになると、地域よりも企業の味づくりの特徴のほうが際立ってくる。
たとえば中米の産地では、コロンビアほどプロセスのシステムができあがっておらず、ある程度の特徴はあっても「農園の味」といえるほどには定まっていません。だからこそ「この地域はこういう味の特徴がある」と語ることができるのですが、コロンビアの場合は同じウィラで採れたチェリーでもまったく異なる味になるため、テロワール単位で語れることはそれほど多くありません。

世界各地の産地と比べてみると、コロンビアの特異性がみえてきます。中南米では唯一、企業=ミル単位での生産がおこなわれていること。そして、企業=ミルによって味の違いが明確にわかれていること。とくに後者は、世界中でみてもこれほど顕著な国はほかにありません。
その背景には、コロンビアが赤道直下にあり、なおかつ、国土が南北にひろいことが関係しているのかもしれません。
コロンビアでは、コーヒーの収穫期が1年に2回あり、ほぼ年中、国内のどこかではコーヒーの収穫がおこなわれています。それにともなってチェリーピッカーが季節労働ではなくなるため、精度が高く安定しています。よい状態のチェリーを調達できる環境が整っているからこそ、規模の大きな企業は栽培よりもプロセスに特化して発展していったのかもしれません。

土地の力とプロセス技術

最後に個人的な意見をつけたすならば、私は、そのように企業=ミルごとにプロセスに特化した生産にはよい点も悪い点もあると思っています。つまり、プロセスによる味の向上と品質の安定化が実現できる反面、味の予想ができてしまい、おもしろみに欠けてしまうのではないか、と思うのです。
私が毎年カッピングをおこなうバイヤーだからこそ、そう思うのかもしれません。しかし私個人としては、プロセスで味をコントロールできてしまうからこそ、ひときわ目立った味わいのコーヒーが生まれる偶然性もまた、失われてしまうのではないかとも感じるのです。
たとえば、(すこし極端な例ですが) 今回の買いつけで訪れたフィンカ・ミランは、革新的な特殊プロセスで世界的に有名な農園です。競技会で使われているロットでおもしろいものがあればと訪れたものの、たとえばスイカの味がしたり、キャラメルの味がしたり──どうしても自然な味わいとはいいがたいものでした。
それらはインフュージョンと呼ばれる技法*1が使われています。インフューズド・コーヒーについては意見が分かれるところですが、それはさておいても、個人的な好みにあわなかったため購入を見送りました。
やはり私は、ウラオのチロソやナリーニョのカトゥーラのような、スタンダードなコーヒーのほうが好きなのです。それは、プロセスによってつくられた味よりも、土地や環境がもたらす味に惹かれるからなのです。

その意味で、今回の旅でとくに印象に残ったのは、ラ・ナチュラ農園を訪れたときのことでした。
農園自体はとても開けた場所にある穏やかな農園でした。コーヒーノキが2、3mの間隔を空けて植えられ、枝を掻き分けて歩く必要がない。基本的に密植されて植えられているコロンビアのなかにも、こんな農園があるのだと驚きました。
いっぽうで、農園内には生態回廊と呼ばれる、森と森をつなぐために意図的に残された場所が点在していました。そちら側のエリアは、足の踏み場もわからないジャングル。そのなかには絶滅危惧種であるケツァールが巣をつくり、新種のランも見つかったそうです。農園主のフェリペさんは、ケツァールが逃げていかないようにチェーンソーなどの機械音も出さないようにしていました。
今年の2月に販売を開始した、ラ・ナチュラ農園のウシュウシュという品種は、まさにそんな土地のなかで素直に育ち、自然に力を発揮しているような美味しいコーヒーでした。
ラ・ナチュラの風景からも感じとれるように、コロンビアは、システム化されたプロセス技術をもつと同時に、アンデス山脈や国の東側にひろがるアマゾン、どんな生物がいるのかもわからない多様な生態系をもっています。そんな手の行き届かない自然からは、どんなコーヒーが生まれてくるかも、わかりません。
ボリビアやペルー、エクアドルなども含め、南米のコーヒーからは土地の養分やエネルギーの豊かさが伝わってきます。コロンビアのコーヒーにも、同じように土地の力を感じることができます。南米ならではの土地の力と、中米のような技術投資。その両方を兼ね備えているところが、コロンビアを唯一無二の産地にしている理由なのではないでしょうか。いわば、コーヒーをつくるうえで、もっていないものがないのです。今回の買いつけは、コロンビアがもつそうした強みを実感する旅となりました。

*1 一般的にインフューズド・コーヒーというと、香料などの化学物質を添加する方法がイメージされますが、フィンカ・ミランでは発酵や精製の過程でサトウキビやフルーツなどの素材をくわえています。彼らはその手法を「カルチャリング・プロセス」と呼び、明確に区別しています。


オリジナルマガジン”Pneuma”ISSUE46より抜粋

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