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記事: Learning and Sourcing Coffee in Colombia

Learning and Sourcing Coffee in Colombia

Learning and Sourcing Coffee in Colombia

Part01 ウォッシュド・プロセスと発酵の技法 ―― Qプロセシング② 佐藤 優貴

昨年の11月から12月にかけて、「Qプロセシング・レベル2」(Qプロセシング2)のコースを受講するため、コロンビアを訪れました。
詳細は前回お届けしましたが、簡単にいえば、コーヒー生産を実習をまじえて体系的に学ぶ講座です。生産処理を複数おこない、試験に合格すると「Qプロセッサー」の資格が取得できます。
いってみれば、日本でコーヒーを販売するうえではあまり必要のない資格です。それでも受講を決めたのは、ダイレクトトレードのなかで、品質向上に情熱を注ぐ農園の方々の想いに応えられるような対話をしたいと考えたからでした。

ウォッシュド・プロセスとは

前回お伝えしたナチュラル・プロセスの仕込みのあと、私たちはウォッシュド・プロセスをつくる工程に移りました。
ウォッシュド・プロセスは、収穫したチェリーの果肉を取り除き(パルピング)、ミューシレージ(粘液質)を水で洗い落としてから乾燥させるプロセスです。
ただ、ぬるぬるとしたミューシレージは種子を覆うパーチメント(内果皮)にしっかりと貼りついているため、パルピング後に発酵させることでミューシレージを分解し、水で洗い流します。そうすることで、明るい酸味ときれいな味わいが特徴のコーヒーに仕上がります。
歴史を辿ると、ウォッシュド・プロセスは18世紀ごろに誕生し、19世紀以降、豊富な水資源をもつコロンビアやケニアなどの国々でひろがったとされています。乾燥時間を大幅に短縮できることや、機械式のパルパーや発酵槽などの設備の普及により、大量生産に向いたプロセスとしても重宝されました。
いっぽうで、大量の水資源を使用することから、環境負荷の大きさが課題となっています。講座内でもその点について触れられていましたが、とくにコロンビアはウォッシュド大国といってもよいほど、多くの生産量を占めています。
プロセスで使用された水は、基本的にそのまま川に流されています。廃棄水に溜まった果肉や糖分などの有機物が分解される過程で、川の水の酸素が大量に消費され、生き物が暮らせない環境になってしまう。コロンビアでも、生態系が損なわれるリスクが指摘されています。廃棄水を浄化するために必要な酸素供給量の多さが、ウォッシュド・プロセスの抱える問題点といえます。
どうすれば廃棄水を減らすことができるのか。あるいは、どうすれば生物が存在できる状態にしてから川に返すことができるのか。
その課題に対して、水を使わずに遠心分離機でミューシレージを取り除く機械も開発されていると聞きましたが、それもまた、膨大な電力を要し、大半の農園にはそのようなインフラはありません。
コーヒーの2050年問題を前に、まだまだ多くの課題が残されているのです。

微生物のはたらく環境をつくる

実習では、ウォッシュド・プロセスだけでも4種類のロットを仕込みました。パルピング後の発酵方法を変えることで、発酵の進み方や味わいの変化をたしかめるためです。
発酵とは、ミューシレージに含まれる糖分などが微生物(おもに細菌や酵母など。本稿では便宜的に「菌」という表現も使用します)のはたらきによって分解され、味わいの輪郭や口当たりに変化をもたらす過程のことです。
つまり、4種類の発酵方法とは、微生物がはたらく環境──水分量や温度、酸素の有無など──を変えるということです。具体的には、「水の中に入れる」「積みあげる」「ひろげて置く」「特定の菌を添加し密閉する」の4パターンを試しました。
たとえば、水の中に入れると、水が緩衝剤となり、温度の影響を受けづらくなりますが、糖が薄まるため発酵が進みづらくなります。積みあげる場合は、水分が抜けにくく、温度が保たれやすい。また、若干嫌気状態になるのも特徴です。
いっぽうで、ひろげて置くと、水分が抜けやすく温度もあがりやすくなります(菌の添加は特殊な方法なので、後述します)。
仮に、気温の高い土地でひろげて発酵させてしまうと温度が上がりすぎて水分がなくなり、発酵がすぐに止まってしまいます。そうした環境では、積みあげて発酵させたほうがよいでしょう。
それぞれの発酵方法の特徴を理解し、農園の環境によって最適なやり方を選ぶこと。それがウォッシュド・プロセスではとくに大事になるポイントです。
ところで、前回、コーヒーチェリーの熟度について「ナチュラルが過熟側を許容するのに対して、ウォッシュドは未熟側を許容する」と書きました。
ウォッシュドの場合、パルピングをおこなうため、未熟であっても乾燥を阻害する果肉が残りません。そのため、未熟豆の存在は致命的なエラーにつながりにくい。そのいっぽうで、過熟が許容されないのは、糖度が高く、組織も分解されはじめているため、微生物反応が急激に進みすぎてしまうからです。過熟豆が混ざっているだけで、オーバーファーメント(過発酵)のリスクが高まってしまうのです。
先の発酵方法についての話とも結びつきますが、ひとつのロットのなかで発酵度合いのバラつきが生じてしまうと、全体のクオリティを損ねる可能性があります。発酵の過不足は、それだけ味わいに与える影響が大きいのです。
ナチュラル・プロセスでは「乾燥に対する統一感」が重要となるのに対して、ウォッシュド・プロセスでは「発酵に対する統一感」が大切です。
そのときどきの環境やチェリーの状態にあわせて、適した方法を選び、均一に発酵させることで、ようやくウォッシュドの最大の特徴でもあるきれいな味わいが生まれるのです。

コーヒーを美味しくする菌?

微生物が味に与える影響の大きさをとくに実感したのが、「特定の菌を添加する」方法について学んだときでした。「特定の菌を添加する」とは、すなわち、コーヒーを美味しくする菌を入れることで、それらが優位にはたらく環境をつくるという、ある意味直接的な方法です。
しかし、はたして、「コーヒーを美味しくする菌」などというものを、どうやって特定するのでしょうか?

この疑問は、もっともであると同時に、順を追って整理する必要があります。
というのも、特定の菌を見つけだすこと自体は可能ですが、コーヒーの発酵においては、あらかじめ「良い菌」が決まっているわけではないからです。じっさいに美味しく仕上がったコーヒーから菌を採取し、培養することでしか、存在を確かめることができないものなのです。
Qプロセシング2が開催されたカラーズ・オブ・ネイチャーのラボには、採取・培養された菌が保管されていました。驚いたのは、菌の香りをかがせてもらったときに、「(コーヒーにとって) 良い菌」からはフルーティーな香りがしたことです。いっぽうで、悪い菌はドブ川のような匂いがする。しかし、いずれにしてもそれらはすべてラボに存在する菌であり、発酵過程でどれが繁殖するかは、やってみなければわかりません。
そうした理由からも、じつは、講座のなかでも菌を添加する方法については、そこまで深く掘りさげられることはありませんでした。
発酵を人為的にコントロールしている例として、たとえばワインにも使われる(出芽)酵母は、発酵の過程でアルコールを生産することで他の菌の生存に不向きな環境をつくる (発酵を支配する) 特性をもっています。
しかし、いっぽうでコーヒーがつくられる熱帯・亜熱帯地域に存在する菌は、他の菌と共生する特性をもっています。そのうえ、ほとんど名前がついておらず、解明できていないものばかりです。
そのため、「良い菌」を特定して添加したとしても、多少はよい方向に傾けることができるかもしれませんが、他の菌とどのように共生するかによって味が変化してしまいます。じっさい、私たちの実習でも、3チームに分かれて仕込みをおこないましたが、同じ豆・同じタイミングでつくったにもかかわらず、すべて違う味に仕上がりました。
コントロールできるようで、できない世界。コーヒーをつくってみて確かめるしかない領域でもあるのです。
くわえて、Qプロセシング2を取り仕切っているCQI(Coffee Quality Institute)は最先端のコーヒーをつくることよりも、世界全体のコーヒーのクオリティを上げることを目的としており、どんな農園でも実施できる方法を中心に取り扱っています。菌の採取・培養も、設備としては比較的導入しやすいほうですが、世界中の農園主がそれを活用できるかといえば、そうではありません。講座も、全体をとおして「(過剰に)発酵させないためにはどうしたらよいのか」に比重が置かれていました。
しかし、今回の講師の方も、CQIの定めたプロセスではそれほど発酵が起こらないため、特別に美味しいコーヒーはできないともおっしゃっていました。とくに近年、アナエロビック・ファーメンテーション(嫌気性発酵)をはじめとして、発酵によって風味を高めたプロセスが大きな注目を集めているように、発酵はコーヒーの新たな可能性をひらく手段のひとつともいえます。
たとえば特定の菌を添加する際に、機材を滅菌すれば、ある程度は狙った味わいをつくることができるでしょう。じっさい、以前プレミアム・コーヒーを取りあげたコラム(ISSUE36 参照)でパナマの「ロスト・オリジン」というプロセス工場を訪れた際のことを書きましたが、そこではパルパーや発酵タンクの滅菌処理が必ずおこなわれていました。そうした取り組みは、パナマやコロンビアなどの一部の国の、最先端の農園ではおこなわれています。

発酵には、メリットもデメリットもあります。味の向上を目指すのであれば発酵させたほうがよいですが、いっぽうで、ロット全体の品質を損ねてしまうリスクもともないます。安定した品質を重視するのであれば、発酵は抑えめにするべきかもしれません。その判断は、農園によって大きく異なり、さまざまです。
発酵とそのリスクをどう捉えるかという点は、コーヒーづくりにおける農園の判断を示す、ひとつの重要な指標になるでしょう。すくなくとも私は、Qプロセシング2で発酵について学んだことで、農園主の話を聞いたときに、その方がどのような考えでコーヒーづくりに向きあっているのかを、理解しやすくなると感じました。

Qプロセシング2全体をとおしていえば、チェリーの熟度の設定の仕方や、収穫からプロセスを終えるまでの観察の方法などの、今後に活かせる知識が得られたと感じています。とくに、プロセスの過程で起こりうるエラーやリスクを知ることができたため、農園の方と直接お話しをする際に、リスクがあるポイントの改善点を具体的に話すことができる。
欠点豆の種類による味の違いを確かめるカッピングなどもおこなったのですが、該当する味をキャッチできた場合は、それだけでプロセスのどこでエラーが起きているかがわかるかもしれません。
ただコーヒーの味を評価するだけでなく、もう一歩踏みこんで味わいを理解できるようになったこと、生産者さんと解像度の高い対話をできるようになったことが、Qプロセシング2から得られた最大の成果でした。

オリジナルマガジン”Pneuma”ISSUE44より抜粋

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