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記事: Cup of Excellence : What the honor means.

Cup of Excellence : What the honor means. <Part2>

Cup of Excellence : What the honor means.

Part02 コーヒーの評価の向こう側にあるもの - エルサルバドルCOE 参加レポート 佐藤 優貴

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幸運にも、5月にエルサルバドルで開催されたカップ・オブ・エクセレンス(Cup of Excellence / COE)に参加することができました。「コーヒー界のアカデミー賞」ともいわれ、世界各地の生産国でひらかれる「もっとも優れた品質のコーヒー」を決める品評会であるCOEは、「卓越したコーヒーを生産しているにもかかわらず、その努力が知られず評価もされていない農園を発掘し、正当な評価と報酬を与えること」を使命とし、透明性や公平さを重視し、小規模農家や恵まれない立場の農家を支援することを、その成功として位置づけています。

先月は、COEの成り立ちや仕組み、生産国への恩恵について詳しくお伝えしました。今月はエルサルバドルでの参加レポートをお届けしたいと思います。


El Salvador Cup of Excellence 2025

今回、私は審査員ではなくオブザーバーとしてCOEに参加しました。オブザーバーは、国際審査員の推薦もしくは公募制で集められ、参加できる人数は国ごとに決められています。いわば試験を受ける研修生のような立場で、国際審査員とともにスコアづけとディスカッションをおこなうものの、じっさいの評価には反映されません。かわりに正しく評価できているかを判断され、合格すると次回以降国際審査員として招集されます。

私がオブザーバーに応募したのは今年が初めてでした。まずはオブザーバー審査を通過しなければならないので、参加が決まったときはホッとしました。個人的な関心や専門性を高める目的もありましたが、国際審査員になれれば生産国での買付の際に信頼や認知を得やすいだろうと考えたのが応募理由でした。

今年のエルサルバドルCOEの開催期間は5月26日から5月30日まで。エルサルバドルに着いたのは、現地時間で24日の夜でした。フリーの一日を挟み、翌日からCOEの概要説明も含むミーティングとカリブレーションを4セッションおこないました。カリブレーションとは、カッピングをより正確におこなうために、参加者の評価基準を擦りあわせ、統一するプロセスのことです。

審査初日は、国内審査を勝ち上がった38種類のコーヒーを4回にわけて審査しました。二日目は、初日に87点に到達しなかった銘柄を除いた32種類を再度カッピングし、より精度の高いスコアをつけます。そして審査最終日は、生産処理ごとにわけられた「ウォッシュ+ハニー」「ナチュラル」「エクスペリメンタル」の各部門のトップ5、計15銘柄を審査して「カップ・オブ・エクセレンス」を決定します。

カッピング後、司会の方がスコアを低いほうから順に読み上げ、各審査員は自分のつけた点数の範囲で手を挙げる場面があります。誰も手を挙げないままスコアが読み上げられていくと、すこしずつ場が昂揚してゆくのを感じました。そしてついに、「90点以上の人」という呼びかけに会場全員の手がバッと上がる。その瞬間は感動的でした。「プレジデンシャルアワード*1だ!」と拍手が響いて、それぞれが感じたフレーバーコメントを5個も10個も滔々と語り、賞讃が集まるのです。

その後は、受賞農園の方たちと話す「ファーマーミーティング」の場が設けられます。英語が苦手な自分にとってはこれがとても大変でした。そんななかでも印象的だったのは、「どんなコーヒーが欲しいのか?」と品種や生産処理についての質問を多く受けたことです。前回、COEは農園にとって世界各国からのフィードバックが得られる貴重な機会であるとお伝えしましたが、ファーマーミーティングはまさにその役割を果たしている場のひとつだと感じました。


世界の基準と自分の立つ場所

初めて参加したCOEのカッピングでは、感じている味と一歩距離を置くこと、つまり、コーヒーの全体像を俯瞰して捉えることを意識していました。ふだんのカッピングでも、集中しすぎると狭い範囲にフォーカスしてしまう傾向が私にはあったため、COEという大きな舞台で視野が狭まることがないよう気をつけていました。そして、ある程度スコアをつけたあとはふつうにコーヒーを楽しむように飲み、集中してつけた点数と齟齬がないかをチェックするようにしました。

審査は1セッション45分という限られた時間のなかで10サンプル近いカップのスコアシートを書き切らなければいけないため速度感も重要です。その点はまだ練習が足りない部分だと痛感しましたが、自分の癖を理解して対策することでルーティンを組むことができ、最後まで偏った意見は出さなかったのではないかと思います。結果は、正答率や点数の幅、独自性などが細かくデータ化され、グラフで共有されますが、正答率は88%と高く、上位陣と変わらない結果を残せたことは自信につながりました。

もうひとつ、カッピングの際に考えていたのは、各国の国際審査員がどんな評価をつけるのか、ということでした。それは、(オブザーバーとして国際審査員のスコアにあわせるためでなく)評価を予測し全体像を把握したうえで、自分の立場や意見をより明確にする必要があったからです。そうすることでディスカッションでも自信をもってスコアの根拠を伝えることができる。自分がいまどこに立っているのかがわからなくなると、正確な評価ができなくなってしまうのです。

たとえば、同じようなスコアに感じたゲイシャとパカマラのどちらを高く評価すべきか悩むこともありました。私はパカマラの味が好みで、おそらくアジア圏の審査員も同様の傾向がありますが、欧米圏はゲイシャを高く評価するだろうことも予想できます。基本的には自分の意見を主張すべきですが、世界基準に照らしながら評価する難しさを感じました。


困難を極めた「エクスペリメンタル」部門

そのことと関連して、いちばん難しかったのは「エクスペリメンタル」部門の審査でした。20年以上の歴史を積み重ねてきた「ウォッシュ+ハニー」と「ナチュラル」部門に比べ、発酵をくわえたコーヒーを扱う「エクスペリメンタル」部門はまだ新しく、ほかの審査員が発酵由来の味わいをどのように評価するのかを見定めるのが難しかったのです。

じっさい、最初の審査では評価が大きくわかれていました。COEではテロワールが重視されるため、本来は発酵由来のフレーバーがそれを覆い隠してしまうのはよしとされません。事前のカリブレーションも含め、その点は繰り返し議論されていたものの、審査では基準と食い違うような場面もあり、自分が正しく評価できているのか不安になりました。

議論を繰り返すなかで徐々にわかってきたのは、欧米とアジアでは好む発酵の種類が違うということでした。欧米は乳酸発酵系を苦手とするいっぽうアルコール発酵系を高く評価し、アジアはその正反対の評価を下す傾向にあったのです。

乳酸発酵系のコーヒーは、たとえばヤクルトやバター、ヨーグルトなどの乳製品のようなフレーバーをもっています。欧米圏の方々はそれを「チーズの味」だと低い評価をつけていました。たしかに乳酸発酵は発酵が進むと酪酸発酵へと変化し、腐敗に近づいて強いチーズのような味がすることがあります。しかし私は、酪酸発酵までは至っていない乳酸発酵の味わいであれば、コーヒーの甘さが増すため問題ないと考えていました。また、pHが下がるためしっかりと酸が感じられ、酸質も複雑なため味に奥行きがでます。とくにゲイシャ種では乳酸発酵の味が感じやすく、むしろポジティブな味わいとして受けとっていました。そのため、欧米圏の方々がもっと手前の段階で腐敗的な味わいと捉えるのだということは、とても新鮮な驚きでした。

いっぽうで、アルコール発酵系のフレーバーにかんしては、私はエタノールの匂いを強く感じて低く評価しました。ところが香りが強いことをとても高く評価する欧米圏では、アルコールが加わることで香りの強度が高まることをポジティブに評価していたのです。

さらに個人的な反省点をつけ足すと、概ねどの国の審査員もイーストフレーバー(酵母やビールのニュアンス)をポジティブに評価していたことが予想外でした。私はテロワールを覆っていると感じて評価しませんでしたが、結果的に審査員の評価とズレてしまった点となりました。

それはともかくとしても、欧米とアジアで意見が見事にわかれていたことは評価を難しくしたポイントであると同時に、COEに参加したからこそ学ぶことができた文化の違いでした。その違いは、べつの角度からみれば、欧米で評価されなくても日本で評価される可能性のある味わいを知ることができたということでもあります。その経験は、海外での評価を認識・理解できるエクスポーター(輸出業者)がいれば、エルサルバドルのコーヒーがもっと世界的な評価を得られるだろうと、その重要性についても考えを巡らせる機会となりました。


消費国の体験を還元すること

そうはいってもCOEの上位3位に入るコーヒーは、20人以上の国際審査員の評価が揃うことがほとんどです。COEの評価では、クリーンカップと甘さの評価がとくに重要な要素となり、その次にフレーバーの複雑さがつづきます。そのうえで酸がしっかりと感じられるものが1位に選ばれ、やや足りないものが2位、3位となる。逆に、酸は感じるけれどフレーバーが足りないものは、さらにその次点に落ち着きます。

ただ、国際審査員の評価はある程度統一されているいっぽうで、ナショナル・ジャッジ*2 の評価能力がまだ十分に育っていないという課題がみえた場面もありました。最終審査にはナショナル・ジャッジから選抜された3名に加わっていただくのですが、国際審査員が90点以上をつけたコーヒーに80点台前半のスコアをつけることがしばしばあったのです。

ナショナル・ジャッジの方たちは、基本的には自国のコーヒーしか飲む機会が得られず、どうしても評価が偏ってしまうのかもしれません。もちろん、COEの評価基準が唯一の正解だと言いたいわけではありませんが、まだ正当に評価されていないロットが埋もれている可能性があるということでもあります。それをふまえると、COEが二度の「コーヒー危機」を背景に消費国側の要望に応じて高品質なコーヒーを生産する旧「グルメプロジェクト」から始まったことの意味を改めて考えさせられます。つまり、消費国の立場で得られた体験を生産国と共有することの重要性を再認識させられた、ということです。

ナショナル・ジャッジや生産者、エクスポーターと情報を共有することで、さらなる品質向上と、付加価値を通じた農園への還元につなげることができるはずです。その意味で、私自身も、より意義のあるフィードバックをもたらすために各生産国にどれだけ味作りの能力があり、それを実現するための設備が揃っているのか、ということを把握しなければいけません。そのためには栽培や生産処理についての理解がまだ足りていないので、そういう観点からも勉強を続けていかなければなりません。

初めて参加したCOEでは、数多くの学びと課題を持ち帰ることができました。もし今回の審査に通過すれば、来年以降、国際審査員として参加できるかもしれませんし、ブラジルとペルーのオブザーバーにも応募しています。今後は、買付とはまた別の方向からも、よりよい循環を生みだせる方法を探っていきたいと思っています


*1 COEスコアで90点以上を獲得したコーヒーに与えられる。例年、各部門の上位1~3銘柄程度しか獲得できない名誉ある賞。
*2 国内審査員。国内で集まったサンプルはナショナル・ジャッジによる二度の国内審査にかけられ、86点以上を獲得した40位以内の銘柄が国際審査に進む
オリジナルマガジン”Pneuma”ISSUE38より抜粋

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