記事: HARIO V60 MUGEN - PANAMA ELIDA CATUAI ANAEROBIC SLOW DRY

HARIO V60 MUGEN - PANAMA ELIDA CATUAI ANAEROBIC SLOW DRY
赤い果実やトロピカルフルーツを思わせる厚みのあるフレーバー、シルクのようになめらかな舌触り、そして時間の経過とともにあらわれるプラムやドライアプリコットのような酸と甘み──エリダ農園カトゥアイ種アナエロビック・スロー・ドライ・プロセスがもつ魅力を余すことなく引きだすためのレシピを組みました。
ドリッパーには、リブのない構造がチャネリング(お湯と粉が触れずに落ちる現象)を抑え、均一な抽出を実現するHARIO V60 MUGEN を使用し、なめらかな舌触りを引きだしています。また、MUGEN特有のゆっくりとした湯抜けを考慮し、ビター感を抑えるために早めの段階で3投目まで注ぎ終えます。序盤に香味の土台をつくり、後半で甘さとバランスを整えることを意識して組んだレシピです。
果実感の鮮やかさと、プラムやドライアプリコットのニュアンス、そして長くつづくチョコレートの余韻が心地よくまとまったカップに仕上がっています。一口目から鮮やかで、冷めてゆくほどに深みが増す、そんな一杯をお楽しみいただければと思います。

使用器具:HARIO V60 MUGEN
粉量 / 粒度:16g / 中挽き (TIMEMORE C3S 16クリック)
湯温 / 湯量:90°C / 240 g (白神山地の水)
時間 - 総湯量 (注湯量)
0 : 00 - 40g (40g)
0 : 30 - 140g (100g)
1 : 15 - 240g (100g)
最初の一杯から、私たちは「これ、良いよね」と互いにうなずきあっていました。ゲイシャ種で名高いパナマのボケテ地区で、私たちがあえて選んだのは、アナエロビック・スロー・ドライ・プロセスが施された、カトゥアイ種でした。
航空機での輸送効率を考えれば、ある程度の量を確保する必要があります。しかし、エリダ農園でのカッピングで出会ったそのコーヒーは、そうした条件を超えて、心に残った一杯でした。エリダ農園を経営するラマスタス・ファミリーの4代目であるウィルフォード・ジュニアと向かいあいながら味を確かめ、「日常のラインナップにも“パナマらしさ”を」と背中を押されたコーヒーでした。
ボケテは、標高1,200 ~ 2,100mの山岳地帯です。昼夜の気温差は約10°C、黒い火山土がミネラルを抱え、霧が木々と果実をやさしく包みます。約100年前、このボケテ地区にコーヒーノキを植えた農家たちから、パナマ・コーヒーの歴史は始まっています。そして、1990年代後半に「パナマ・スペシャルティコーヒー協会(SCAP)」の設立とともに品質競争が本格化し、2004年にゲイシャ種が当時の落札価格の最高記録を更新したことで、瞬く間にボケテは世界的に特別な土地へと姿を変えたのです。
ラマスタス・ファミリーは、ボケテでコーヒー栽培を始めた農家のうちのひとつです。1918年、アメリカから移住したロバート・ラマスタスによって創設された農園は、4世代にわたって守られ、パナマ・コーヒーの歴史の中心的存在として特別な地位を確立しています。
農園の敷地の半分以上はバルー火山国立公園の保護区内にあります。森から吹く湿った風と火山性土壌のミネラルが糖分や有機酸をたっぷりと蓄える条件を整え、昼の柔らかな陽射しと夜の10°Cを下回る冷えこみが、果実の成熟をゆっくりと進めます。さらに、ボケテ地区特有の「バハレケ」と呼ばれる細やかな霧が、日中の強い日差しをやわらげ、果実の風味を一層繊細で複雑なものに育てます。こうして生まれるコーヒーは、甘さと酸味のバランスに優れ、世界中の愛好家を魅了しています。
アナエロビック・スロー・ドライ(Anaerobic Slow Dry、ASD)は、そうしたテロワールを余すことなくカップに写し取るためにラマスタス・ファミリーが磨き上げた生産処理法です。密閉タンクでの発酵では、最初に酵母が高級アルコールやエステルをつくりだし、次に乳酸菌が口当たりを柔らかくする乳酸やグリセロールを生みます。発酵後、直射を避けた室内で30 ~ 45日かけて低温乾燥することで、果実の香りを逃さず、質感が絹のようになめらかになります。
カトゥアイ種は穏やかな香味特性をもつ品種ですが、ASDによって赤い果実やトロピカルフルーツを思わせる厚み、ぶどう飴のような甘さ、シルクのような舌触りが加わります。時間が経つとプラムやドライアプリコットのような酸と甘さが顔を出し、最後の一口まで鮮やかさが持続します。
このロットを選ぶことは、たんなる買い付けの枠を超えた意味をもっています。100 年以上の歴史と、代々受け継がれた「品質を守り抜く」哲学に賛同すること。ゲイシャ種の陰に隠れがちなカトゥアイ種が、環境と技術によってここまで豊かな表情をもちうるのだということを、ぜひ感じてみてください。
エリダ農園カトゥアイ種アナエロビック・スロー・ドライ・プロセス──パナマの自然と歴史、そして人の手が結晶した一杯です。