記事: TIMEMORE CRYSTAL EYE B75 - BRAZIL PEDRA REDONDA / CATUAI HONEY

TIMEMORE CRYSTAL EYE B75 - BRAZIL PEDRA REDONDA / CATUAI HONEY
みずみずしく透明感のあるフルーティーな酸味とクリーミーな質感、フローラルや柑橘を思わせる華やかな香りのニュアンス、そして時間の経過とともにひろがる柔らかな甘み──。そんな、ブラジル/ペドラ・レドンダ農園のカトゥアイ種ハニー・プロセスの魅力を余すことなく引き出すためのレシピを組みました。
「TIMEMORE CRYSTAL EYE B75」の、フラットベッドでありながら湯抜けの良い特性を活かし、フルーティーな印象をクリアに抽出します。いっぽうで、シンプルで軽やかになりすぎないようにやや多めの粉量と気持ち細かめの挽き目を選択し、さらに湯温をすこし抑えることで果実感を際立たせつつも厚みをもたせ、味わいのバランスを整えています。
そうして出来上がったカップは、穏やかでありながら、プラムのような赤い果実や柑橘を思わせるニュアンスと、長く続くチョコレートのような余韻が心地よくひろがります。最初のひとくちから感じられる澄んだ印象と、冷めゆくほどに奥行きを増す 一杯をお楽しみください。

使用器具:TIMEMORE CRYSTAL EYE B75
粉量 / 粒度:17g / 中挽き (TIMEMORE C3S 16クリック)
湯温 / 湯量:88°C / 240 g (白神山地の水)
時間 - 総湯量 (注湯量)
0 : 00 - 50g (50g)
0 : 40 - 70g (120g)
1 : 20 - 60g (180g)
1 : 45 - 60g (240g)
10月1日、国際コーヒーの日。
この日は、2015年に国際コーヒー機関が、各国で異なっていた記念日を統一するために、ブラジルでの収穫年度の幕開けにあわせて制定されました。
その節目となる日に出会ったのが、今回ご紹介するブラジル/ペドラ・レドンダ農園の一杯でした。
サンプルが届いた時点では、価格の高さにすこし戸惑いました。品種はカトゥアイで、プロセスもハニーと特別珍しいものではありません。にもかかわらず、一般的な価格の2~3倍の値段がついていたからです。しかし、理由を探るようにカップをすると、その答えは一口で明らかになりました。フローラルや柑橘を思わせる香りの立ち方、みずみずしい酸、そして雑味のないクリーンさ。「ブラジルは甘さやナッツ感は優れていても、突出した個性はすくない」という常識を覆す体験だったのです。
ブラジルは世界最大のコーヒー生産国です。18世紀に栽培が始まって以来、19世紀の「コーヒー・サイクル」と呼ばれる輸出繁栄期を経て、国の経済を支えてきました。しかし1975年の「黒霜」で南部の生産地域は甚大な被害を受け、生産の中心は平坦な地形のセラード地域に移動し、灌漑や機械化の急速なひろがりとともに、大規模かつ効率的な農業が主流となっていきます。
そうした流れのなかでも、ペドラ・レドンダ農園のあるミナス・ジェライス州アラポンガ地区は異彩を放つ存在です。標高950~1,400mに位置するこのエリアは急斜面が多く、大型収穫機が入らないため、いまも人の手で収穫を続けています。効率だけを考えれば不利な条件ですが、そのぶん一粒ごとの熟度を見極めた選別が可能となり、それが結果的に品質の高さにつながっているのです。さらに、大西洋岸森林の影響で微気候が複雑に変化し、区画ごとに熟度の進み方が異なるため、「手で選ぶ」という営みが必然的に求められます。
また、ブラジルの多くの産地は、フェラルソル(Ferralsols)と呼ばれる栽培に有利とはいえない土壌に覆われているため、施肥の精度と養分管理が品質を大きく左右します。
カトゥアイ種は60年代にブラジルで誕生した交配品種で、樹高が低く密植に適するため普及しましたが、風味の面では中庸です。甘さや口当たりには優れますが、香気成分は控え目です。それゆえにプロセスやテロワールの違いをそのまま映し出すため「キャンバスのような存在」といわれています。
ペドラ・レドンダ農園は、そうした土壌や品種の特性を逆手に取って活かし、精緻な施肥管理や丁寧な収穫によって驚くほどのクリーンさと華やかさを生み出し、「ブラジルらしさ」を超える表現力を発揮しているのです。
そして、ハニー・プロセスがその味わいをさらに際立たせています。じつはハニー・プロセスもまた、60年代にブラジルで「パルプト・ナチュラル」として誕生した精製法です。水資源の節約と品質向上を同時に実現する画期的な手法として注目され、その後の再評価を経て、いまでは世界のスペシャルティを代表するプロセスのひとつとなりました。
完熟チェリーから外皮と一部の果肉を除去し、甘みを含む粘液質(ミューシレージ)を残したまま乾燥させるハニー・プロセスは、ウォッシュドの透明感と、ナチュラルの果実感の中間に位置づけられます。ミューシレージ由来の糖やペクチンが微生物によって分解され、アルコールやエステルなどの香気成分が生成されて豆に取りこまれ、焙煎時にフルーティーでフローラルな香りとして立ち上がります。そして、冷めるにつれて柔らかな甘さが増し、最後まで澄んだ印象が続きます。
急斜面での手作業、土壌と施肥の工夫、そしてブラジル発のプロセス。テロワール・品種・人の技術が重なりあい、この一杯が生まれました。ブラジルの常識を覆す一杯を、ぜひ体験してください。