
【Portrait of a Barista】 種井清次郎 / 鎌倉店
ウッドベリースタッフのオリジンや内面に迫る「PORTRAIT OF A BARISTA」
今回は鎌倉店の種井さんに、6つの質問を答えていただきました。

Q1 生まれ育った街について教えてください。
鎌倉の笛田という地域です。地理的にいうと大仏殿よりさらに西側にある鎌倉山の麓の奥まった場所で、いまでも僕が生まれたころと変わらず畑や田んぼが残っています。桜並木が有名で、とても綺麗です。
鎌倉というと、藤沢や茅ヶ崎などもふくめて「湘南」とひとくくりにされてオシャレなイメージをもたれることがありますが、僕としては鎌倉はもっと田舎に近い、穏やかな土地だという感覚のほうが強い。東京から一時間程度で来られて、歴史と自然を感じて心安らげる場所として楽しんでいただける街だと思っています。
Q2 バリスタを目指したきっかけは?
コーヒー業界に入ったのはスターバックスでした。「ブラックエプロン」の試験勉強をするなかで、職人のような存在になりたいと、当時JBCのチャンピオンになったばかりの岡田章宏さんのセミナーに参加したんです。2008年、まだ日本にサードウェーブのトレンドが巻き起こる前。「日本チャンピオンといってもよく知らないし」と思っていたのですが、岡田さんが淹れたエスプレッソとカプチーノを飲んで、考えが一変しました。そのとき自分はブラックエプロンをつけて、スタバのなかではチヤホヤされていたんです。でも、岡田さんのコーヒーは自分がふだん淹れているものとはまったくの別物で。しかも意図を全部ご自身の経験から説明してくれる。本当に恥ずかしくなって「自分もこういう人になりたい、もっと勉強しよう」と思ったんです。
ウッドベリーを知ったのは、2012年か13年だったと思います。古橋見洋さんのブログで知って足を運び、その後のパブリックカッピングにも参加しました。そこで浅めに焙煎したカケンジ農園(2008 年のCOEブラジル受賞農園)を飲みました。当時、僕が働いていたコーヒー屋でもカケンジを扱っていたので、方向性は違えど良い焙煎だなと印象深く、以降、ウッドベリーでカケンジが発売されるたびに購入していました。
僕は、岡田さんに衝撃を受けたときから、コーヒーに対して嘘をつきたくないと思っているんです。ウッドベリーで働きはじめたのも、自分が本当に美味しいとか素晴らしいと思っているものを出すお店だと思ったからです。鎌倉店ができて、母と暮らす生活も壊さず、自分にも嘘をつかない環境で働けることも大きかったです。

Q3 好きなコーヒー豆を教えてください。
もちろん自分をウッドベリーに導いてくれたブラジル/カケンジ農園です。ブラジルといえばアーモンドやチョコレートのような印象が一般的でしたが、カケンジは非常に鮮やかな酸味と甘さで、とても綺麗なコーヒーでした。現在からすれば、それでもナッティだったと思いますが、当時はブラジルでもこんなにフルーティーなコーヒーがカルモ・デ・ミナスという地域で採れるんだという衝撃があった。喩えるなら、かつての映画スターのようなコーヒーです。
Q4 いまハマっているカルチャー(本や音楽、映画など)を教えてください。
最近『チ。―地球の運動について―』(魚豊、小学館)を読み返しました。15世紀ヨーロッパを舞台に地動説を描いたマンガです。作中、主人公は命を落として何人か変わる。それでも引き継がれる地動説と、その美しさにおぼえた感動こそが『チ。』の主人公といえる点がすごくおもしろいんです。
人が情熱をもって、失敗も成功もふくめて自分が得たもののバトンをつないでゆく。『チ。』を読むと、文化や学問はまさにそういうものだなと感じるとともに、コーヒーも同じだと思うんです。かつてコーヒー文化が生まれてから現在に至るまで、いろいろな人が覚えた感動とか科学的な検証、知識や技術が引き継がれている。僕も先人が培ってきたものをちゃんと受けとって、次の人たちに余すところなく渡していきたい。『チ。』を読んでいると、そうした自分の想いが重なるところがあります。
Q5 鎌倉店の気に入っているところを教えてください。
海の風を感じられるテラス席は、鎌倉という、このお店のある〈場所〉を象徴するような席だと思っています。ワンちゃんとも一緒に過ごせるので、お客様がとてもリラックスされているのが印象的です。先日も、ワンちゃんが先導するように一番奥の席に走っていって、お客様が「うちの子はこの場所が本当に好きなんです」と。ワンチャンにも気に入ってもらえる場所をつくれたことが嬉しくて心に残る瞬間でした。

Q6 これからの未来のためにしていることは?
フリッツ・ストーム(WBC2002チャンピオン)が、情報や経験を独占せずに公開すれば、周りが成長し、そのなかで自分もさらなる成長を望めるということを言っていました。ここまでの話ともつながりますが、自分の経験や知識を惜しむことなく誰にでも提供することは、意識して続けています。
もうひとつ、前職の福祉施設併設のカフェとの関係を継続しています。街のコミュニティと一体になった場で、ご高齢の方や障がいのある方とコーヒーを楽しみながら希望を届けたいと思っています。







