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記事: Our Shared Mission : Why We Keep Building Stores

Our Shared Mission : Why We Keep Building Stores <Part2>

Our Shared Mission : Why We Keep Building Stores

Part2 よりよい世界をつくるために 木原 武蔵

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先月で創業14周年を迎えた私たちウッドベリーコーヒーは、現在、東京・神奈川に11店舗を展開しています。
私の地元・用賀で始めた小さなロースターから、ここまで店舗を拡大してきたのは、「コーヒーをとおしてよりよい世界をつくる」という使命感を胸に、コーヒーに向き合いつづけてきた結果です。
すべては生産者に還元できるレベルのお店をつくるため。これまでの歩みを振り返った前回につづき、ようやくその景色が現実味を帯びてみえてきたいま、私たちが抱いている想いについてお伝えしていきます。

時代の変化のなかで為すべきこと

この14年のあいだに、コーヒーを取り巻く環境は、大きく変化してきました。
振り返ってみれば、お店を開いた2012年はコンビニコーヒーが流行する直前のことでした。街中でテイクアウトカップを手にコーヒーを飲んでいる人はほとんどおらず、ましてやスペシャルティコーヒーなど、ほとんどの人には知られていませんでした。
また、価格をみても、当時セブン–イレブンのコーヒーは100円でしたが、いまでは140円にまで上がっています。とくにこの1、2年は世界的にコマーシャルコーヒーの価格が高騰し、スペシャルティとの価格差も相対的に縮まっています。そうした変化も間接的にスペシャルティの普及につながり、14年前では考えられないほど身近な存在になっていると感じます。

たとえば、ご年配のお客様のなかにもゲイシャを好んで選ばれる方が明らかに増えています。
仮に、コーヒー店を訪れた100人に「ゲイシャを知っていますか?」と訊ねたとします。むかしだったら知っている人は1人いたかどうかだと思いますが、いまなら40人くらいは知っているかもしれない。あくまでも私個人の感覚的なたとえ話ではありますが、そもそも品種についての会話が日常的に成り立つこと自体が、本当に驚くべきことだと思います。

また、世界的なスペシャルティコーヒー市場の発展とともに、小ロット・高品質なコーヒーを生産する農園が増え、農園主催のオークションやSNSなどを通じて、航空便で直接取引できるようになったことも大きな変化といえます。その結果として、私たちがダイレクトトレードを始めた22年ごろと比べると、ダイレクトトレードをおこなう小さなロースターが増えたことも注目すべきことだと思っています。
そうして取り引きされるものの多くは、1杯で3000円するような、いわゆるトップ・クオリティのコーヒーが中心です。創業当初まで遡るまでもなく、ほんの数年前までそんなコーヒーは市場になく、あったとしてもほとんど売れませんでした。
ところが、とくにこの数年、生産・消費の両面において高品質・高価格帯のコーヒーは目覚ましい発展を遂げ、いまでは「パナマのゲイシャで3000円なら安い」というような価値観もひろがりつつあります。
これまで本誌のコラムでもたびたび取りあげてきたように、その背景には気候変動による収量の減少など複数の要因が関係しています。つまり、たんなる価格の高騰というよりも、品質や付加価値が市場に受け入れられる土壌が育ってきたのだと言ったほうが正しいでしょう。

そうした時代の変化のなかで、私たちがすべきことはいったいなんでしょうか?
この数年、私たちもプレミアムラインのコーヒーの取り扱いを段階的に増やして参りましたが、いっぽうで先述したような小ロットのコーヒーだけを仕入れるのは、あくまでも市場のメインストリームではないと考えています。高価格帯のコーヒーに特化したお店づくりもまた、ひとつのあり方ですが、私たちは、日常的に楽しめるコーヒーからトップ・ロットまで幅ひろく取り揃えた、生活の一部となれるようなお店をつくりつづけていきたいと思っています。
というのも、どちらのコーヒーも魅力的に思っているのは当然として、農園も必ずしもトップ・ロットだけをつくっているわけではないからです。むしろそのような農園はほんのひと握りで、有名農園であっても段階的な品揃えを備えているのです。
それには、2000年代にアメリカ大陸でさび病が流行し、甚大な被害が生じたことも影響しています。たとえばゲイシャだけを栽培していた場合、さび病がひろがったときにすべての木がまとめて死んでしまいます。そうした事態を避けるために、どの農園も区画を分け、違う品種を交互に植えるなど、さまざまな工夫を凝らしています。段階的なラインナップは、気候変動の影響が年々大きくなるなかでの、農園の生存戦略のひとつでもあるのです。
ひるがえって、消費国側の私たちもまた同様の危機に瀕する可能性があります。それこそ先日、ワールド・バリスタ・チャンピオンの井崎(英典) さんとお会いした際にファインロブの話題で盛りあがりましたが、将来的にひとつの品種どころか、アラビカ種が全部ダメになってしまう可能性すらもあるなかで、私たちもいろいろな選択肢を取れるようにしておきたいとも考えています。
話をもどせば、そうした農園の取り組みを目の当たりにしてきたからこそ、「私たちはトップ・ロットしか買いません」というスタンスで付きあうのは、誠実ではないと私は思います。
ダイレクトトレードを始める前に「5カ国、1コンテナ(20トン)」がスタートラインだと目標設定したように、やるからにはいちばんボリュームがあるロットを、しっかりと買い付け、彼らにより多くのものを還元したい。それこそがスペシャルティコーヒーのロースターがすべきことだと思っているのです。

循環の環をひろげるために

プレミアムラインといえば、24年に初めて COE(Cup of Excellence)受賞ロット(エルサルバドル/サンタ・フェ農園) を単独で落札できたことは、私たちがブランドの目指す姿として掲げていた目標のひとつを達成できた、感慨深い出来事でした。さらに、翌年にはブラジル COEの1位受賞ロット(ビオマ農園)を購入でき、お客様に「1位のコーヒーです」とお出しできたことも、大きな喜びでした。COE オークションでは、価格面だけでなくひとつのロットの数量も多いため、単独落札は店舗が増えたからこそ実現できた成果でもあります。

くわえて、店舗拡大によって、お客様と農園をつなぐ役割も、より強く果たせるようになりました。
お客様との接点がひろがったことで、日々さまざまなフィードバックをいただけるようになり、それを生産者のもとへと直接伝えられるようになったのです。
私たちが理想としているのは、農園からコーヒーを買い、お客様へ届けるだけの一方通行の関係ではありません。農園とお客様をつなぎ、それぞれの声や価値を共有することで、よりよい循環を生みだせるような関係性をつくりたいのです。
ダイレクトトレードを継続するなかで、そうした関係を築けているのが、エルサルバドル/トレス・ポソス農園です。毎年、私たちが一番多くのコーヒーを購入しているのですが、農園主のアルマンドさんは、私たちが支払ったお金を設備投資に充て、品質向上というかたちで応えてくれます。さらに、私たちがお客様から伺った好みを伝えると、すぐにコーヒーづくりに反映してくれさえもします。
また、幅ひろい層のお客様と向き合うなかでコーヒーの魅力や生産者の想いをより伝わるかたちで届ける方法に気づかされることもすくなくありません。そうした試行錯誤の積み重ねが、結果として私たち自身が深くコーヒーに向き合うことにもつながっていると感じています。お客様からいただいたものを生産者へ届け、より美味しいコーヒーとしてお客様にお返しする。
私たちは、その循環の輪をさらにひろげてゆくために、これからもより多くの方との出会いを大切にしていきたいと考えています。

ウッドベリーコーヒーの“魂“

前回、この連載の最初に書いたように、私はお店を増やすこと自体を目標としているわけではありません。ここまでお伝えしてきたように、それはコーヒーに向き合ってきたことの結果として、自然と積み重なってきたものなのです。
それが現在11店舗に到達し、メンバーも 130人を超えるまでに至って、もし今後20店舗を超えてしまうと品質を守ることが難しくなるのではないか、と感じるようにもなりました。
たとえば、成長を優先して、仕込みを減らしたり、ミスをしないようにいろいろな部分を画一化してゆく道もあるでしょう。それもまた正解だと思いますし、実行している人たちのことも尊敬しています。じっさい、海外ではそうした方向へ舵を切るお店も増えています。ただ、ウッドベリーは、規模が大きくなっても、一軒の個人店のような感覚を失わずにいたいと思っています。
生産者へ還元できるだけのお店をつくりあげながら、なおかつ、クオリティも損なわない。そのバランスを保つことこそ、私たちウッドベリーコーヒーがいまもっとも肝に銘ずべきことだと、自らに言い聞かせています。

それは、ほかでもなく私自身が「コーヒーの楽しみはひとつではない」と思っているからなのです。
たしかに、いまも全店舗でクオリティを維持することの難しさを感じることもあります。しかし、いっぽうで私はメンバー全員に“正解の味”をつねに出すことを求めているわけではありません。
むしろ、淹れる人によって味がすこし違ったり、プレゼンテーションやホスピタリティにも、それぞれの個性があってもよい。純粋な「味」だけでなく、そうした「体験」がコーヒーの美味しさに与える影響はとても大きく、多様性をもたせたいと思っているのです。
素材はしっかりと美味しいものを用意して、焙煎をきちんと仕上げ、その先はバリスタに託したい。そうした揺らぎこそがコーヒーの醍醐味だと考えているからこそ、規模が大きくなったいまでも、ウッドベリーは独立資本を保ち、個人店のスタンスを貫きつづけているのです。

個人店のような体験を楽しんでいただき、コーヒーの美味しさや背景にある価値を伝えるためにも、細かなオペレーションにおいて、あえて手間のかかる方法を選んでいることもすくなくありません。
たとえば、私たちは店内提供では、オリジナルの益子焼きの器や、コーヒーかす釉薬を使ったマグカップ、薄口のグラスなどを使用し、欠けた器も金継ぎで直して使いつづけることにこだわっています。商業施設に出店するようになって、飲食業界のフードロスやプラスチックゴミの多さに改めて驚かされましたが、たしかに、洗いものをする人件費を考えれば、店内提供でも紙コップを使ったほうが合理的なのです。しかし、できるだけ資源を使い捨てにしないことも、気候変動の影響を受けるコーヒーと向き合う私たちの責任だと考えています。
そうした理由から、器だけでなくストローについても、お求めになられた際にはまず、そのまま飲んでいただくことをおすすめしています。もちろん事情はさまざまなので無理強いはしませんが、器も含めて設計したコーヒーの味わいを楽しんでいただきたい。そして同時に、余計なゴミも増やしたくない。そのふたつの想いから続けている取り組みです。
くわえて、ストローと同じように、砂糖についても、やはりワンクッション置いてコーヒーがもつ本来の味わいをお伝えするようにしています。生産者のみなさんは、スペシャルティコーヒーの特徴でもあるコーヒーの「甘さ」を引き出すために、標高の高い場所で栽培をおこなうなど、多くの手間と時間をかけています。彼らの仕事に敬意を払う意味でも、その甘さを感じていただけるよう案内することは、大切な使命だと思っているのです。

これらの、いわば“適度なストレス”を与えるような取り組みは、やはりチェーン店的なオペレーションでは難しいと思うのです。アメリカーノやカフェラテのご注文でも必ず3種類の豆から選んでいただいていますが、それもお客様によっては手間に感じる方もいらっしゃるでしょう。レジも時間がかかりますし、店側にとっても効率はけっしてよくありません。経済合理性だけを考えれば、やめたほうがよいことばかりかもしれません。
それでも創業当初からのスタンスを変えずに続けているのは、コーヒーが多種多様な味わいをもっていることを、お客様に体験していただきたいからです。そして、その一杯からコーヒーが生まれるまでの背景や、気候変動の問題などに興味をもっていただきたいのです。
小さなことからスペシャルティコーヒー全体の啓蒙活動だと思って積み重ねてゆくことが、最終的には農園への還元につながるはずです。だからこそ私たちは、効率よりも、想いを伝える努力を選びつづけているのです。

スペシャルティコーヒーは、それまで主流だった大量生産・大量消費を前提としたコモディティコーヒーとは異なる価値観のなかから誕生し、いわばカウンターカルチャー的な精神とともに発展してきた文化だと、私は考えています。
だからこそ、私たちも店舗や規模を拡大したとしても、高度資本主義経済のなかで規模を競うことを目指すのではなく、ここまで書いてきたようなウッドベリーの“魂”を守りつづけたい。その価値観やカルチャーを、メンバーのなかにも、お客様のなかにも、しっかりと育んでゆくことを大切にしたいと思っているのです。
それこそが、「to make the earth a better place」というウッドベリーの存在意義を実現するための道だと信じています。

オリジナルマガジン”Pneuma”ISSUE49より抜粋

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