
Giving Ideas Shape : Rethinking Coffee Packaging
Part01 包むかたちで表現できること
田井 竜之介(株式会社田井屋/ MTPAK COFFEE JAPAN)× 井上 心平
ウッドベリーコーヒーのロゴとパッケージが新しくなって、1年が経ちました。みなさまの暮らしに、私たちのお店や商品が溶けこみ、「よりよい世界をつくる」ための導きとなってほしい。その想いと責任を果たすために、じつは、コーヒー豆のパッケージはリサイクルしやすい単一素材で素材でつくられています。
今月からは、そんな私たちの考えを形にしてくださった株式会社田井屋/MTPAK COFFEE JAPANの田井竜之介さんをお迎えし、リニューアルを担当した井上との対談をお届けします

MTPAK がひらいた可能性
── はじめに、株式会社田井屋およびMTPAK COFFEE JAPANについて簡単にご紹介いただければと思います。
田井 株式会社田井屋は、石川県金沢市に本社がある包装資材の専門商社です。創業は1765年、手漉きの和紙をつくる紙商から始まり、現在はプラスチック製の食品容器や、お肉やお魚を入れる発泡スチロールのトレー、紙箱などの紙製品のほかにも、洗剤やニトリル手袋、マスクなどの消耗資材なども取り扱い、主にスーパーなどの量販店やホテル、飲食店、食品工場などに資材を納めています。
いっぽう、MTPAK COFFEE JAPAN(以下、MTPAK JAPAN)は、上海にあるコーヒー用パッケージメーカーであるMTPAK COFFEEの正規代理店として設立されました。MTPAKは2015年に紙コップの製造から事業を開始し、現在は世界中のロースター/ショップに向けて、豆袋を製造・販売しています。
MTPAK JAPANの設立は昨年(2025年)4月のことなので、ウッドベリーさんのパッケージは、私たちの事業として比較的早い段階で手がけた事例でした。
井上 昨年9月の二子玉川店(玉川髙島屋S.C.店)オープンにあわせて、ロゴとプロダクトデザインのリニューアルが決まっていました。なかでも、パッケージデザインは長らく課題に感じていたもののひとつで、じつは過去に中国のMTPAK に直接連絡をとってパッケージをつくろうとしたことがあるんです。ただ、いくつかサンプルを取り寄せるところまでは進んだものの、ものすごく時間がかかってしまってうまくいきませんでした。そして、いよいよパッケージをつくらなければいけないタイミングで、幸運にも田井屋さんが代理店をつくってくださったんです。
田井 対外的にリリースしたのは7月の「CAFERES JAPAN」でのことでしたが、その前からご連絡をいただいていましたね。当時はいまほどたくさんのお客様との取引実績もなかったので、ひとつひとつ確認しながらつくらせていただき、私たちとしてもありがたかったです。

── MTPAK JAPANを立ち上げられた経緯を教えてください。
田井 取り引きのあった、とあるロースターさんから相談を受けてMTPAKに連絡をしたことがきっかけでした。
井上 以前からロースターとの取引は多かったんですか?
田井 いまほどロースターに特化した仕事はしていませんでしたが、ほかの飲食店同様に紙箱などの包材を納めたりはしていたんです。
ただ、その際に初めてロースターがフラットボトム*1の袋を求めていることに気がついて興味をもったんです。というのも私は前職でコンバーターと呼ばれる、フィルムなどの素材に印刷・加工をして袋に仕上げる業種に就いていたため、日本ではフラットボトムのパッケージをつくれる会社がすごくすくないことを知っていたからです。
くわえて、私自身もコーヒーは好きだったので気になって海外のロースターのパッケージを調べてみると、すでに何年も前からフラットボトムがひとつのスタイルのようになっていて、そのギャップに驚きました。ごく一部、中国の工場に直接連絡をして取り引きしていた国内のロースターもあったものの、日本の食品衛生の法律や全体的な仕様を把握している代理店がない状態が続いており、MTPAKの商品は日本ではほとんど流通しておらず、自立型のパッケージといえばスタンドパック形状 (底部分にマチがある型) の袋がほとんどでした。デザインするにしてもクラフト地か無地のスタンドパックにラベルを貼るなどするしかなく、似たようなパッケージが多かったんです。
ところが、MTPAKはフラットボトムのパッケージを小ロットでつくれて、デザインの自由度もすごく高かった。これは日本のコーヒー業界にも喜ばれる商品になるのではないかと、1年ほどかけて互いに信用を深めながら代理店になる道を模索していったんです。
井上 まさにおっしゃるとおりで、私たちの以前のパッケージもクラフト地のスタンドパックにinfoカードをクリップを止めるかたちで、デザインの差別化に苦心していました。なので、たとえば雑誌『Standart』付録のコーヒーや海外のパッケージをみて、「こんなこともできるのか」と感心するとともに歯がゆさを感じていたんです。
田井 MTPAKは「コーヒーパッケージを、より自由に」という理念を掲げているとおり、完全オリジナルのパッケージをつくることができます。その意味でも多少なりとも貢献できているのではないかと思っています。
── 日本でコーヒーパッケージの選択肢が限られていたのはなぜでしょうか?
田井 まず、フラットボトムにかんしていうと、国内でつくれる会社が少ないのは製袋(印刷・ラミネートなどを終えたフィルムや紙などを「袋」の形に仕上げる工程)のために専用の製袋機が必要で、非常に高額なため日本でもっているメーカーが限られているからです。
くわえて、国内のメーカーと MTPAKでは、ロットに対する基本的な考え方にも違いがあります。日本の包装資材業界は、ロール状の「原反」(加工前のフィルムや紙などの素材) から何個の袋が生産できるかを基準としてロット計算をします。原反は一巻きで4000mあるため、たとえば幅が10cmの袋をつくりたい場合、単純計算で4万枚が最少ロットになってしまうんです(じっさいにはフィルムを何面で取るかによっても違います)。
そうした日本特有の事情がかけあわさって、フラットボトムはとくに、工場としても同じ製品をつくりつづけるほうが効率がよいんですね。そのため、日本でフラットボトムが採用されているのは、たとえば何十万メートル規模のロットを回しつづけられる巨大商品だったり、あるいはプロテインやペットフードのような大型の商品ばかりです。だから、コーヒーショップが最少ロットでフラットボトムのパッケージをつくりたいと思っても、納期がかかったり単価が高くなったり、それどころか見積もりすら出してもらえないような状況にあります。
井上 つくりかたよりもシステムの違いなんですね。
田井 そうなんです。いっぽう、MTPAKの場合は、サイズにかかわらず2000枚単位で完全オリジナルのパッケージがつくれます。それこそ50g用の小さな袋でも構わない。それは、ロットの基準がフィルムの原反の長さではなく枚数で考えられているからなんです。
じっさい、私たちも去年工場をみてきましたが、製袋機は日本にあるものと同じでした。ただ、台数が圧倒的に多く工場の小回りが利くようになっている点が最大の違いです。くわえて、最新のデジタル印刷機も積極的に導入しているため、巨大なロットで機械を回しつづけることも、最少ロットでラインを切り替えながらつくることもできるんです。
井上 日本の場合、欧米と比べるとコーヒーの市場自体が小さいことも関係していると思います。アメリカでは、ひとくちに「マイクロロースター」といっても1コンテナ(約20トン)輸入するお店も多いので、何万枚という規模でもつくれなくはないんだと思います。

コーヒーパッケージが表現するもの
── ほかの食品用パッケージと比べて、コーヒーパッケージの特徴やおもしろさはどんなところにあると思いますか?
田井 この1年のあいだにたくさんのロースターさんとご一緒させていただきましたが、ほかの食品パッケージと比べても、色使いや素材感、フィルム選びなど、何を重視するかによってお店の世界観や哲学がはっきりと表れるところが、コーヒーパッケージの最大の特徴だと改めて思います。
井上 ロースターにはアーティスト気質をもった人が多い気がしますね。
田井 それこそコーヒーだけじゃなくて音楽とか絵画とか、カルチャーに対するこだわりをもった方が多いですよね。パッケージをつくるときにも、商業的なものをつくるというよりは「自分たちを表現するためのツール」のひとつとして捉えている。既製品を使っていても上手に表現しているロースターもあるので、その点も含めておもしろさのひとつだと思います。
井上 海外だと、たとえば私はSEY COFFEEのデザインが好きなのですが、パッケージがアイコンになっているようなお店もたくさんありますよね。
田井 ロースターにとっていちばん大事なのはコーヒー豆を買ってもらうことですよね。お店で飲んでもらうという方法はあるにしても、産地からプロセス、焙煎まで、多種多様な豆があるなかで、その違いをパッケージで表現するのは難しいことだとも思います。いくらinfoカードなどに情報を記載していても、まずはお客さんに手に取ってもらわなければいけない。パッケージはその最初のハードルを越えるために重要な役割を担っているからこそ、ロースターの世界観がはっきりと表れるのかもしれません。
井上 コーヒー豆を手に取るための最初のきっかけとなるような、ある種ブランドの「顔」のようなものだと思っています。二子玉川店をオープンするときにデザインリニューアルをしたかったのも、私たちの商品が初めて百貨店に並ぶにあたって、規格袋ではインパクトがなく手に取っていただきづらいだろうと思ったからでした。髙島屋に入っているほかのお店の商品と一緒に並んでも恥ずかしくないような、ウッドベリーの顔となる商品パッケージをつくりたいという想いが強かったんです。
── そうした想いを実現するためにもMTPAKの自由度の高さは大きな強みになる。
田井 MTPAKではサイズだけでなく、素材、加工、印刷まで、ゼロからつくることができます。ただ、逆にいえばそれらをひとつひとつ決めていかなければいけないんですよね。
たとえば素材選定についても、バリア性能やコスト、サステナビリティなど、何を重視するかによって選ぶべきフィルムの構成や加工が異なり、仕上がりのイメージが変化します。どうしてもフィルムについての専門的な知識が必要になるので、地理的に離れた会社とべつの言語でコミュニケーションをとりながら進めるのは難しい側面があります。しかも、小ロットといえども一度つくったらある程度はまとまった量ができあがってしまうので、なおさらです。
パッケージは形あるものだからこそ、私たちはお客様にショールームにお越しいただいて、じっさいにサンプルを見たり触ったりしながら一緒につくってゆくことを大切にしています。ロースターの想いを正確に反映するためにも、私たちのような代理店の存在が意味あるものになるだろうと思っています。







