記事: HARIO V60 MUGEN - EL SALVADOR LAS VENTANAS / PACAMARA WASHED

HARIO V60 MUGEN - EL SALVADOR LAS VENTANAS / PACAMARA WASHED
今月はラス・ヴェンタナス農園のコーヒーがもつフルーティーさと豊かな口当たりにフォーカスして、アイスコーヒーのレシピを組んでみました。
ポイントは多めに注ぐ 1 投目です。抽出の前半に溶け出しやすい酸味をしっかりと引き出すことでフルーツの印象が明るく表現されます。そして2投目からは注湯の間隔をしっかりと取り、甘さや質感を取り出すことで、酸だけに偏らないよう全体のテイストバランスに注意しています。
また、今回はアイスコーヒーの急冷レシピなので、最終的に氷で薄まることを加味し、抽出比率は1:10と低めで設定しています。ただし、低い抽出比率は、過少抽出による未成熟な酸味に傾きやすくなる条件のひとつでもあります。そのうえで、抽出時にチャネリングが起きてしまうと、さらにサワー感を助長してしまいます。
そうした二重のサワー感を防ぐために、今回はドリッパーにリブのないHARIO V60 MUGENを採用しました。チャネリングを遮断することでサワーになる要因を潰し、狙いどおりの豊かな甘さとリッチな質感を抽出するサポートをしてくれます。
こうしてできあがったカップからはレモンと、すこしトロピカルフルーツのようなフレーバーも感じられ、ジューシーな印象が得られます。パカマラ品種由来のリッチな口当たりとブラウンシュガーのような後味をもちつつも、重たくなりすぎず、すっきりとした後口になっています。ぜひお楽しみください。


Origin
エルサルバドルの生産地域のひとつ、チャラテナンゴで育まれるパカマラ種は、その品質の高さで世界的に知られています。今回ご紹介するラス・ヴェンタナス農園は、その「チャラテナンゴ・パカマラ」の立役者であるラ・モンタニータ農園のアントニオ・レネ・アギラール・レムス氏から、娘のエリサさんが農園の区画を受け継いで営む農園です。
パカマラはエルサルバドルで30年の年月をかけて開発された国を代表する品種です。ゲイシャをも凌駕するクオリティを発揮することもある高品質な品種ですが、いっぽうで、不安定な遺伝子という欠点があります。全体の10%ほどが先祖返りし、交配元のパカスもしくはマラゴジッペの特徴が色濃く出ることがあり、ひとえにパカマラといってもいくつかのパターンが存在するのです。
じっさい、私がラス・ヴェンタナスを訪れた際も、植わっている木の樹齢が同じであってもサイズはさまざまでした。それが環境によるものなのか、遺伝子由来なのか。そして味わいは異なるのか──個人的にはマラゴジッペサイドのパカマラのほうが品質が高いような印象をもっていますが、それぞれで遺伝子検査と官能評価をおこない、データを取ってみなければ、その実態はわかりません。パカマラは、私にとって興味の尽きない品種のひとつでもあります。
ゲイシャが香りの品種だとすれば、パカマラは味の品種といえます。その違いは、光合成でつくられたエネルギーを振り分ける経路が品種の遺伝子によって異なることに起因します。具体的にいえば、ゲイシャは華やかな香気成分をつくるMEP経路、パカマラは芳香族アミノ酸をつくるシキミ経路により多くのエネルギーを流しています。そのためパカマラはゲイシャのようなわかりやすい華やかさはないものの、奥行きのある味わいや厚みのある口当たりという特徴をもっているのです。
さて、チャラテナンゴのパカマラが高い品質を誇っているのはなぜでしょうか。その秘密は土壌にあるのではないか、というのが私の立てた仮説です。エルサルバドルは基本的に火山性土壌ですが、チャラテナンゴの大地には堆積岩土壌が混ざっており、ほかの地域と比べるとpHが高く、塩基類(カリウムやカルシウム、マグネシウムなど) が多く含まれているのが特徴です。
塩基類は植物に吸収され、有機酸と結合することで有機酸塩となり、上質でフルーティーな印象をつくりだします。とくにパカマラは豆のサイズが大きく、たくさん実をつける性質をもっているため、たくさんの塩基類が必要となります。チャラテナンゴの土壌にそれを満たすための素地があったからこそ、この地で育てられたパカマラは特別な輝きを放っているのでしょう。
ラス・ヴェンタナス農園は、そんなチャラテナンゴ県のラ・パルマ地区、標高1,700mの場所にあります。日当たりと風通しのよい場所にあるためか、他の農園と比べても収穫を終えるのが早く、チェリーの成熟が早いことが窺えます。
また、ドライミルも同様の環境にあるため、8~14日と比較的短期間で乾燥を終えます。テントを張ってスロードライを試そうとしたところ強風に飛ばされてしまったことがあるほどの場所で、スピーディーに乾燥を終え、発酵のフェーズを短時間で抜けるため、毎年一貫して繊細で綺麗な味わいに仕上がるのです。
ラス・ヴェンタナスのパカマラが美味しいのは、品種特性とチャラテナンゴの土壌、農園の育成環境とプロセスすべてが組みあわさった結果にほかなりません。パカマラの礎を築いた父・アントニオ氏から受け継がれた、エリサ・ベアトリス・アギラール・ランダベルデさんがつくりあげた味わいを、ぜひお楽しみください。
(佐藤)

Roast
今回のポイントは、品種とプロセスへの対応です。大きなスクリーンサイズに対応するため、投入温度を高く・初期火力を抑え、ある程度時間をかけて焙煎することで内部まで発達させていきます。
そこまでは以前紹介したトレス・ポソスと同様のアプローチですが、異なるのは、1ハゼ前後の火力コントロール。ラス・ヴェンタナスはセミウッシュド・プロセスなので、ナチュラルのポソスのように1ハゼ前後で大きく火力を落とすとアンダーになってしまいます。さらに、ハゼ前に豆温度が急上昇するタイミングがあり、その挙動を未然に防ぐためにハゼ前にすこしだけ火力を落としておきます。そうすることで、焦げを抑制しつつ適切に発達させています。
(今川)








